著者:長沼 伸一郎
評価:B+
【評】
直観的な理解を何よりも愛する著者が、確率統計学習の絶好の題材としてBlack-Scholes理論を活用する。
これまで人々がランダムな現象をいかに取り扱ってきたか、いかにしてGaussによりランダムな世界を扱う数学の鍵・統計学が開発されたか、経済学ではそのツールがどのように使われるかを、あの手この手で直観的な理解に導こうと試みる。
本書の中心思想はこうだ。
「この世界の誤差やばらつきは2つの部分、つまり一定方向のバイアス部分(トレンド)と、±両方向にランダムに現れる部分(ボラティリティ)の二つで構成されている」。
この二つに対し数学的テクニックを活用し、トレンドを消したり(中心極限定理)、ボラを消したりして(無リスクポートフォリオ)楽しむのが本書のスタイル。
詳しい内容は本書に譲るが、
イスラム経済や江戸経済を例に引き、資本主義の未来(?)を予想するところまでやってのけ、ブルーバックスの皮をかぶった教養書としても機能する。
「たとえ停滞経済を考えても、擾乱によるボラティリティ型の拡大は止めることができず、ただしそれは指数関数でなく直線的に緩やかに増大する」。
確率微分方程式はもとより、補足で「測度」と「ルベーグ積分」なるキモいものがコンニチワするが、こういった難しそうな概念が登場したときは、「それが何であるか」の本質を知って迂回前進すればOKとのこと。
ただし「上級編」では偏微分、Taylor展開、Fourier解析などが素知らぬ顔で押し入って来るので、大学教養程度の数学知識はどの分野でも必要だろう。
なお、正規分布や統計学の理解を深める入門書としても使える(分布が二等辺三角形になっているパラレルワールドを経由するのが面白い)。が、p.100から加速するので注意。