評価:B
【評】
山路を登りながら、こう考えた。あ。これみたことある。
智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引っ越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。というわけで、或る画工が非人情の旅に出た。
ただまのあたりに見れば、そこに詩も生き、歌も湧く。
詩人とは自分の屍骸を、自分で解剖して、その病状を天下に発表する義務を有している。(略)
涙を十七字に纏めた時には、苦しみの涙は自分から遊離して、俺は泣く事の出来る男だという嬉しさだけの自分になる。
ギリシャ彫刻、山水画、書、英詩、オフェーリアなどのモチーフを随所に登場させながら、芸術の三昧境について持論を開陳する。少々衒学的なきらいもある。
なんとも朦朧とした小説だけど、
床屋のコミカル描写、裸体美人の谷崎ばりの描写には唸ったね。
世界はもう二つになった。老人は思わず窓際へ寄る。青年は窓から首を出す。これは汎用性高い。使っていこう。