【概要】
老境に達した著者の小品を取り揃える。一度死の淵をさまよった若き日の原体験、老いと死に向き合っていく心境が窺い知れて興味深い。
巻末には妻の津村節子が登場。文学者夫婦には憧れる。
【詳細】
『ひとすじの煙』
…若き療養の日々。灰色の景色と感情が紙面から滲む。
『二人』『死顔』
…他人の死を見て己の死を思う。執筆時、著者は死に向けて心の準備をしていたに違いない。
私と妻は、自分たちが死を迎えた時、息子と娘以外に死顔を見せたくない、と話し合っていた。出棺の折に遺族のみならず一般の焼香客も、お別れと言って死顔を見るのが仕来りになっているが、死は完全な終結であり、別れはすんでいるという思いがある。
『山茶花』
…保護司というシブい題材。淡々と綴られた物語のおわりに、対象者が他人になったことを実感するのが少しさびしい。
『クレイスロック号遭難』
…記録文学然としている。土左衛門の描写がやたら克明。丁寧で誠実な対応が不平等条約改正に一役買ったようだ。