Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

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ムツゴロウの青春記

ムツゴロウの青春記 (文春文庫)
ムツゴロウの青春記 (文春文庫) [文庫]
著者:畑正憲
評価:B

最近あまり見ないムツゴロウこと畑正憲の自伝、「ムツゴロウの○○記」シリーズの先鞭。
文体は著者の敬愛する北杜夫チックな感じがする。
主に中学生のときの話を中心に、自身の大切な部分を形成したと語る幼児期・少年期から、東大入学にともなう東京での生活が始まるところまで。青春に限らず、若人の抱えるさまざまな思いを代弁してくれたような気がした。
しかしこのムツゴロウってオッさんは本当にいろんなことをやっていたんだなと見直した。古今東西の文学に原書で親しみ、数多くのスポーツをして、さらにはプラトニックリア充と、ムツゴロウ若き日々に於いてせざることなしといったところか。

以下まじめなムツゴロウさんのお言葉をご覧ください。

”しかし厳密に、実用的に規定するなら、やはり恋は少年期のものではなく、思春期以降のものであろう。何故なら、恋は相手と溶け合おうとする衝動である。生の成熟がない恋は、たとえ心理的な条件を満たしていても、片輪であると言えよう。具体的に相手と結ばれる危険性をはらんでいない恋は、画に描いた餅であり、どんな果実も結び得ない。もろく豊かな、そしてお互いにその影響を刻み得る心と肉体を持ってこそ、恋の条件は完全になるのかもしれない。”

”一番苦しかったのは父であったろう。息子たちを働かせ、しかも自分は金を使って勉強している。世間の常識と全く逆である。その精神的な苦痛は想像にあまりある。
普通なら、
「ついに俺には達成できなかった。だから息子たちよ、お前たちが存分に勉強してくれ」
と言うはずである。これが現在の教育ママや教育パパの発想である。が、これほど自堕落な、愚劣な発想があろうか。
私はいくつになっても、ひたむきに生きる人を尊敬する。一ミリでも一センチでもいい、じりじりと夢へと這っていく人を。
息子に夢を託すというのは、生活の放棄であり甘えである。そういう心根で息子や娘に楽をさせても、ロクな結果が生まれるものか。現状にふさわしい所で、常に前を向いて歩くことこそ大切なのである。私は、自分の父が、家庭を一切省みずに勉強したことを誇りたい位だ。”

”青春が反抗期と呼ばれ、既成の権威や習慣を認めなくなるのも独立への息吹きである。そしてこの反抗期こそは、人類の文化にとって比べようもない重大な役割を果たしてきた。
もし人類が、親の伝えることだけを唯唯諾諾としてうけとってきたのなら、まだ獣同然の暮しをしていただろう。だが反抗期があり、この時期に学んだものから自由になり得たからこそ、新しい文化をつけ加えてここまでやってこれたのである。そういう意味で、私は青春こそ人類の宝だと思う。これ以上尊いものはこの地上には見当たらぬ。”

”恋はより確かに相手を所有しようという衝動ではあるが、空想に身をまかす夜の部分と、相手と語らう昼の部分とがあって、ためらいながら育っていくようだ。夜の部分では大胆になり、放恣な空想をほしいままにするが、昼の部分では、相手が自分とは異なった生き物であることを認め、衝動を内に閉じこめようとする。”