著者(監督):武者小路実篤
【概要】
実篤の釈迦伝で戦前のベストセラー。岩波文庫の『スッタニパータ』や『大パニニッパーナ経』などの釈尊伝よりも平易で一般向け。釈迦、ほぼ悟っているがまだ人間味を少し残している。
【詳細】
実篤曰く、「僕はむずかしいことはなるべく書かないことに心がけた。しかし大事なことはなるべく、くわしく書くように心がけた」。
彼はそれ等のものが可哀そうで仕方がなかった。
何とかして救うことはできないものかと思った。
しかしどうしていいかわからなかった。
彼の目には涙がにじみ出て来た。
彼は生きているのが不幸なことを骨の髄から感じた。
大概の人ならごまかして通れる。しかし真面目で、本気で、真理を求め、本当に憐れな人人々を救いたく思う、そして自分の一生を何か有意味にしたい太子にとっては、ごまかして日を送るの程、空虚な心細いことはなかった。
真剣に道を求めたかった。
出来るか、出来ないか、やって見なければわかりませんが、私はそれを得るまでは死んでも退かない覚悟でおります。
利発な者、お調子者、愚鈍な者、淫欲・偸盗・殺生の罪を犯す破戒者、そんな彼らでも大海のような心で釈迦は教えを垂れ善道に導く。根気強く、噛んで含めるように。
「他人の不幸の上に自分の幸福を築いてはいけません」
「忍は大舟だ、難を渡ることが出来る」
「心や行がよくって始(ママ)めてひとに愛敬される」
論戦や暗殺をしかける敵が現われても、鍛えた心と読心術で不敗。
「心理だけが彼を支配した」から完全に悟ったのかと思いきや、
「仏陀は人情を知らない男ではない。知りすぎた男である」と時折煩悶したり笑ったりする。
人間味を加えすぎると如来から離れる。無心にしすぎると温かみを失う。
難しい。
「我が死後、よくこの法を修行するものがあらば、その人は真にわが弟子である。」の言葉にあるように、『出家とその弟子』も系統的には親類なので読んでみては。
<その他>
「送られるものより、送るものの方が慰められた」
こういう一行に弱い。
実篤渾身のギャグ。
- 「十万円上げます」
- 「今の女なら怒るであろうが…」
- 「地獄で仏に逢ったように喜んだ」