著者:斉須政雄
評価:B
評価:B
【評】
料理人のモーレツな戦記もとい半生伝。
フランスの6つの店で武者修行。
語りかけるような文体でよみやすい。若い人への厳しくもあたたかい視線が不愉快でない。
できるならば、若い人には、ある程度の時期までは無傷で行ってほしい。傷はいつかは必ず受けるものです。三五歳ぐらいまでは、天真爛漫なまま、能力や人格や器を大きく育てていったほうが、いいのではないでしょうか。無傷で行かないと、大舞台に立った時に腰が引けてしまう。いじましい思いが先に出てしまう。
若い頃という限定された時期に強がりを発揮しなければ、伸びる足も伸びないのではないでしょうか。生意気と言われようが、何を言われようが、やれるようになるのなら構わない。信じたことがやれるまでに成長できるきっかけは、若い一瞬だと思うのです。
経験上、優れた人が他人を判断するときに目を留めるところは
「ひとつひとつのことをきちんと処理しているかどうか」なのではないかと思うのです。
掃除ができない人は、何もできないと思います。
あんまり効率のいい生き方をしていると、すり切れていってしまうような気がするんです。ですから、ゆっくりと遠回りでもいいけど、一歩ずつ行くことを選びました。
まわり道をした人ほど多くのものを得て、滋養を含んだ人間性にたどりつく。これは、ぼくにとっての結論でもあります。技術者としても人間としても、そう思う。
思惑をこえたことをやる人って、何か「静か」ですよね? さわやかで健やかで人知れず生きてて、だけどやるぞという時にはぶっちぎる。ふつうにしているけどやる時はやるというのが、すごい人なんじゃないかなぁと感じます。「ふつう」って無味乾燥で透明人間なんですよ。
フランスで出会った最高の人たちは、ふつうの人でした。壁に正面からぶち当たり、タンコブを作りながら毎日をひたすら積み重ねていた。……ぼくは、その姿に感動した。