Wまりまり。
私の遠い記憶は、父との世界の中に、あった。父の膝の、葉巻の薫香のする中に、握りあわされた掌の、なめらかな手袋を距てた温もりの中に、私の幼時の想い出はあったのだ。
私にとっては父親とは、恋人だった。私にとっては父親は、恋人以外の何ものでもない。
「お茉莉は上等、お茉莉は上等」と伝説の文豪に徹底的に甘やかされた娘が、永遠の憧憬の対象として「パッパ」への愛(あるいは片想い)を語り尽くす。編者あとがきにもある通り、「一体どれだけパッパのことを書けば気が済むのだろう」と思わずにはいられない。ファザコンのはしり。
正直言って、編集的な問題かもしれないが、同じ話が多すぎて飽きてしまう。たとえば巴里に立つ日の別離のシーンなんか少なくとも5回は出てくるので、たちまちお腹いっぱいになってしまう。「~で、あった」などの不思議な位置に打たれた読点、謎に長いカッコの中など、お世辞にも読みやすいとは言えない文体もあいまって。もはや差分や表現の微妙な違いを探すゲームになってしまって、紙面を追うと眠気を催すようになってしまう。ただ、超然とした父・鷗外の日常の挙措を知ることができる点は魅力がある。巨きな樹のような静かで威厳のある、しかしやさしい存在感を放ち、清潔で博学多才であったようだ。
【詳細】
<目次>
省略。
<メモ>
時代に先駆けてオシャレネームを子供たちに命名していたのはあまりにも有名。