【概要】
著者(監督):宇能鴻一郎
官能小説チックな、肉感的な、猟奇的な、スキャンダラスな風味が谷崎あたりを思い起こさせる。暗く熱く湿った感触がある文体といった感じ。実際に宇能は谷崎リスペクトらしい。
表題作の「姫君を喰う話」「花魁小桜の足」「ズロース挽歌」はコクがあり芳醇であった。著者の官能小説も読んでみたくなった。
【詳細】
<目次>
<メモ>
(姫君を喰う話)
ああ、まさしくこの通りであった。顔中を汗と自分の唾と、もっともっと高貴な花の露でしとどに濡らし、光らせながら、私はふしぎな法悦にあえぎ、身もだえしていた。涙さえ、あるいは面を濡らしていたかもしれぬ。まぎれもない処女の御身ではあるものの、ねぶりそそのかした御ししむらは、もはや御肌よりも高く、はげしく湧きつづけていた。けれども、これ以上のことはどうしても、できなかった。斎宮を男の肉もてつらぬき参らすのは、およそ前例のないことだった。恐ろしくもあるし勿体なくもあるし……いや、私はこれだけでも、十分に満足していたのである。その上は、考えるだに怖れ多かった。あまりにもはばかりがありすぎた。
高貴な花の露(; ・`д・´)
「それでは、あなたは、姫君を愛するあまり、とうとう食べてしまった、というのですね。なめたり、しゃぶったり、軽く噛んだりするだけでは我慢できずに」
重々しく虚無僧は、うなずいて言った。
「さよう……。愛する人をしゃぶったり、噛んだりしたくなるのはあたりまえのことです。だが、愛するものが死んだら、空しく埋めたり焼いたりするよりは、食べてしまいたくなるのが、そうして我が身の一部に変えたくなるのが、むしろ自然ではありますまいか。それがまことの愛情であり、私はただ、それを実行しただけ。とはいうものの……かくも妄執を残したむくいは忽ちにあらわれ、あさましき鬼の姿となり、あるいは辛うじて虚無僧に身をかえて天蓋に顔をかくし、かく人に立ちまじっているのです」
「それでは、千年以上たったいまでも、こうしてあなたがモツ焼き屋に姿を見せるのは、やはり姫宮の足を、舌を、もっと隠微な御身を、なめ、しゃぶり、噛んだ感触が忘れられないからですね。愛するあまり、とうとう姫宮を食べてしまった思い出に、今もふけっているわけですね」
かなり呂律のまわらぬ舌で、しかし陽気に私はそう叫んだのだが、返事はなかった。
イロモノ怪奇譚といった感じだ(; ・`д・´)
(花魁小桜の足)
けれども小桜太夫は少しも恐れていなかった。なぜなら脚をはずし、向きを変えながらチラと見た耶蘇の御顔は 先夜の病み上がり和蘭陀荷主に似た顔は、小桜に踏まれて確かに優しい、ウットリした微笑を、お浮かべになった、と見えたからでした……。
『沈黙』のB面といった感がある。
(ズロース挽歌)
向きあって坐った女学生の、膝のあいだから見えたズロース。ソフトボールでしゃがみこんだキャッチャアの、お尻をおおっていた黒いブルーマア。銀輪を蹴るスカートのひだの、活発な動き。かすかな便所の匂いにかならず思い出す"電球"の記憶。あるいは自分が、例の黄金人間に化し、彼の楽しみを自分の楽しみとしている想像……。材料に不自由はしなかった。
黄金人間の謎が知りたい人はぜひ本書を読んで確認されたい(; ・`д・´)