Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

アラスカ物語

著者:新田次郎
評価:B+

【概要】
エスキモーの英雄・フランク安田の波乱万丈の生涯を描く。極北の氷原踏破、エスキモー化、出埃及ならぬ出ポイントバロー、ゴールドラッシュ…人間の生きる力、切り拓く力に驚嘆させられる。漫画『ゴールデンカムイ』を彷彿とさせる内容でもある。

【詳細】
フランク安田という芸人みたいな名前(ジョージ大島、ジェームズ皆野もいるよ)のアウトサイダーが、気付いたらアラスカの英雄になっていた。数奇すぎる生涯と高潔な人格に驚嘆せよ。

<はじまり編>
凍った海で身動きの取れなくなった沿岸警備船・ベアー号。日本人乗組員・フランク安田は険悪になった船から半ば追い出される形で食糧調達の冒険に出る。暴風と寒気に襲われ死出の旅になるかと思われたが、なんとか氷原を踏破。
なんという自制力、忍耐力、生命力。
船員生活をリタイアし、生活の場をエスキモーの村・ポイントバローに移す。
「壁の向こうのエスキモーホールに行きなさい。そして本日から彼らとともに寝起きをすることだ」

彼がエスキモーではなく日本人だと説明すると、ジャパンという種族のエスキモーだと理解した。ジャパンという種族のエスキモーは、海を越えた遠いところに住んでいるので、言葉も通じないだろうと思っているようだった。身体つきも皮膚の色もエスキモーそっくりな彼だから、エスキモーだと思われるのは当然であった。もう一つ、彼がエスキモーたちに仲間だと思わせたのは、彼が最初から嫌な顔一つせず生肉を食べたからである。白人には絶対にできないことだった。
早速、すさまじすぎる適応力を発揮。

フランクはカレギ(同族または同じ狩猟グループの男子の集会所)の生活にすぐ慣れた。そこにはきびしい掟や戒律はなく、ただ自覚だけがあった。エスキモーの若者たちはカレギに入ると、他人に言われずとも、守るべきことは守った。してはならないことはしなかった。
衝撃的な速度でエスキモー的生活に順応。犬橇の使い方はもちろん、アザラシやクジラ、カリブー猟をマスターする。
エスキモーにとっては狩猟が生命だった。狩猟の上手な男と結婚した女は生涯楽な暮しが出来、狩猟の下手な男と結婚した女は生涯肩身のせまい思いをしながら生きねばならなかった。

極北の大地では、オーロラや白夜、光柱ダイヤモンドダストなどの自然の神秘も顔を出す。

北から出て北に沈む太陽。一日中頭の廻りを廻り続ける太陽。フランクは、この奇妙な動作をする太陽に畏怖した。北極の夏の太陽は沈まない

<旅立ち編>
見よ。すさまじい生活力。

「二年と経たないうちにエスキモー語をほとんど完全に理解し、北極のハンターとしての技術を身につけた君の才能は驚異に値する」

フランクが行けばたいていのことは不思議に解決した。エスキモー間におけるフランクの信用は絶大だった。

ジャパニーズ・モーゼ、アラスカのサンタクロース、ここから伝説ははじまった。

君だよ、彼等を飢餓から積極的に脱出させることのできるリーダーは君しか居ない。そして、彼等も、君を頼りにしている。日本という国からやって来たエスキモーは、必ず我々を救ってくれると彼らの多くは思い始めているのだ。君には迷惑だろう。エスキモーのために一生を投げ出したくはないだろう。しかし、いまからでは遅い。いかなることがあっても、君はエスキモーから逃れることはできないのだ」

インディアン大酋長とのラップバトル、金脈の発見を経て安住の地に辿り着く。

<移住後>
彼はビーバー村における、戸籍係、代書屋、銀行屋、商店主、口入れ業、身上相談所長であった。彼に出来ないことは、産婆だけだと言われていた。

シャンダラー鉱山によって得た財産はほとんどなくなっていた。(中略)真の原因は彼の人の善さにあった。交易所で品物を売ったが、貸し売りが多く、貸しはほとんど返ってはこなかった。それを請求するようなことは一度としてなかった。
見よ。すさまじい人格力。
まっこと立志伝中の人物であった。


一応ロマンスもあるよ。
<ぼくは、千代さんを、おれは千代さんを……>
愛しているという言葉が言えなかった。好きだとも言えなかった。結婚してくれとも言えなかった。恋していたのだなんて言える筈がなかった。彼はおれとぼくと千代さんの三語を交互につぶやきながら、泣いている千代の肩に手を掛けてもやれずに立ち尽していた。

<じろう>
巻末のアラスカ旅行記からは、次郎の不器用ながらも真摯な性格が偲ばれる。
「この作品ほど作家としての精神的呵責に悩まされたものはない」と言うまじめさ、無骨ながらも誠のある取材術は見習いたい。