Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

小さき者へ・生れ出ずる悩み

著者:有島武郎
評価:B+

【評】
小さき者へ
パパの渾身のお手紙。
大きくなったら、見てね。
お前たちの母上が最後の息気を引きとるまでの一年と七カ月の間、私たちの間には烈しい戦が闘われた。母上は死に対して最上の態度を取るために、お前たちに最大の愛を遺すために、私を加減なしに理解するために、私は母上を病魔から救うために、自分に迫る運命を男らしく肩に担い上げるために、お前たちは不思議な運命から自分を解放するために、身にふさわない境遇の中に自分をはめ込むために、闘った。

小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。しかし恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。
行け。勇んで。小さき者よ。

『生れ出ずる悩み』
妄想を逞しくして、いまや漁夫となったかつての少年の心境を物語にした。
近代的自我の目覚め、ほとばしる創造力の雄叫びですな。

「誰れも気もつかず注意も払わない地球の隅っこで、尊い一つの魂が母体を破り出ようとして苦んでいる」
「この一生をどんな風に過したら、俺れはほんとうに俺れらしい生き方ができるのだろう」 

ほんとうに地球は生きている。生きて呼吸している。この地球の生まんとする悩み、この地球の胸の中に隠れて生れ出ようとするものの悩み――それを僕はしみじみと君によって感ずる事ができる。それは湧き出で跳り上る強い力の感じを以て僕を涙ぐませる。