【概要】
著者(監督):植村直己
ナオミが南極大陸犬ぞり走破に向け、グリーンランドでウルルン滞在記しつつ極地トレーニングを行う。エスキモーとの生活で、極地の気候・食事・狩猟の何たるか、そして犬ぞり技術を体得していく。紹介状もなく居候先を探す無鉄砲さは相変わらずだが、荷揚げの手伝い、縄跳び、ラジオ体操でまずは子供の心をつかむなど、戦略的人たらしの本領をさっそく発揮する。肉塊を食う通過儀礼(読んでいるだけで吐き気が)を経て、エスキモーたちの仲間入り。奔放な酒宴を経て完全に同化完了。「ジャパニ・エスキモー」として40人の来客があるまでの人気者となる。
酒とSEXへの敷居の低さに閉口しつつも、さすがの適応能力ですぐに慣れる。子供に言葉を習ったり、村人に犬ぞり技術やその他Tips(睾丸を握って手の凍結解除を行うなど)を教わり、窮地を乗り越えて目標の3000㌔走破を達成する。無鉄砲に見えて意外と慎重で「冒険とは生きて帰ること」と喝破。犬を殺すことができなかったのがナオミらしい。
【詳細】
<目次>
<メモ>
外洋の大氷原で方向を見失ったこともあったが、そんなときでもまず腰をすえ、お茶をわかすだけの余裕がいつの間にかできていた。回を重ねるごとに犬橇が自分のものになっていく。大氷原の中で猛烈な吹雪の夜をすごしたこともある。しかし私はそれさえも、極地では当然のこととして受けとめ、新しい体験として歓迎するようになっていた。
「ナオミ、チキカイ」(ナオミ、よく帰ってきた)
イヌーソトアは人垣をかきわけ、私にとびつくと、しっかりと抱きしめ、何度も何度も背中をたたく。ナトックも、
「ナオミ、ナオミ」
と呼ぶだけで、私に抱きついたまま次の言葉が出てこない。眼に涙をあふれさせ。しわくちゃの顔をグイグイ私に押しつけてくる。私は頬にナトックのあたたかい涙を感じながら、これで長いつらい犬橇旅行は本当に終わったのだと思った。