Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

西洋中世の男と女

著者:阿部謹也
評価:B+

【評】
『緋文字』なる小説や、
高村光太郎の 「駄目だ。早く帰つて心と心をしやりしやりと擦り合せたい。寂しいよ」
から説き起こして、
西洋中世の男女に関するオカシな慣習や法律がなぜできあがっていったのかをオハナシする。
こーゆーの読むたびにキリスト教の功罪を思うね。

厖大な史料を読みながら、ヨーロッパ中世社会のなかで男女の関係を律する規則が、日本では想像できないほど厳密で詳細をきわめていることに気付いたのです。教会が何故これほどまでに男女の性的関係のあり方に関心を抱いたのかが私の興味のはじまりでした。

社会全体がごく自然な状態に戻りつつあるにもかかわらず、聖性に対する憧れは消えてゆかないのです。聖性をどうやって保証するかがキリスト教の課題だったからです。

中世という時代は、本来、純粋に世俗的な出来事であった結婚という、いわば世俗的な人間関係に宗教的な規範で上から屋根を覆いかぶせようとした時代で、結婚が教会の秘蹟にまで高められた時代だったのです。

マジメ一辺倒ではなく、贖罪規定書や
アベラールとエロイーズの往復書簡で笑わせに来るから侮れない。

教育という口実の下で、われわれはまったく愛に没頭した。学問研究という名目が愛に必要な離れた部屋を与えてくれた。本は開かれてありながら、学問に没頭するよりは愛に関することばが多く交わされ、説明よりは接吻が多くあった。私の手は、しばしば、本より彼女の胸に行った。我々の目は文字の上をたどるよりは、一層多くお互いを見合った。

たとえ全世界に君臨するアウグストゥス皇帝が、私を結婚の相手とされ、私に対して全宇宙を永久に支配させると確約されましても、彼の皇后と呼ばれるよりは、あなたの娼婦と呼ばれるほうが私にはいとしく、また価値があるように思われます。
エロイーズの文章を読むと、そこにはさまざまな呪縛があったものの、人間は現在の私たちと少しも変わらないという確信を持つことができます。

キリスト教会は千年以上もの間、人間の愛を肉体抜きでしか認めようとしなかったのですが、エロイーズは肉体を備えた男女の愛が真に深い愛に向かうことができることをこのような状況のなかで語りつづけ、数百年ののちに小説の中ではありますが、ヘスタ・プリンも自分たちの肉体の愛が神聖なものであったと語っているのです。