Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

山月記・李陵

著者:中島敦
評価:B+

【評】
『李陵』『弟子』『名人伝』『山月記』『文字禍』『悟浄出世』『悟浄嘆異』『狼疾記』その他。
古典に取材した作品群には、硬質かつ流麗な文章が並ぶ。
近代的自我、文字、歴史などが主たるテーマのようだ。
頭でっかちになりすぎないようにとの警句ともとれる。
書を捨てよ、町に出よう。

山月記
我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為である。己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢て刻苦して磨こうともせず、また、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することもできなかった

『文字禍』
書かれなかった事は、無かった事じゃ。芽の出ぬ種子は、結局初めから無かったのじゃわい。 歴史とはな、この粘土板のことじゃ。

悟浄出世
この病に侵された者はな、凡ての物事を素直に受取ることが出来ぬ。何を見ても、何に出会うても『何故?』とすぐに考える。(略)
殊に始末に困るのは、この病人が『自分』というものに疑をもつことじゃ。何故俺は俺を俺と思うのか? 他の者を俺と思うても差支えなかろうに。俺とは一体何だ? こう考え始めるのが、この病の一番悪い徴候じゃ。

そんな生意気をいう前に、とにかく、自分でもまだ知らないでいるに違いない自己を試み展開してみようという勇気が出て来た。躊躇する前に試みよう。結果の成否は考えずに、ただ、試みるために全力を挙げて試みよう。決定的な失敗に帰したっていいのだ。今まではいつも、失敗への危惧から努力を抛棄していた渠が、骨折り損を厭わない所にまで昇華されて来たのである。

悟浄嘆異
俺が比較的彼を怒らせないのは、今まで彼と一定の距離を保っていて彼の前に余りボロを出さないようにしていたからだ。こんな事ではいつまで経っても学べる訳が無い。もっと悟空に近附き、如何に彼の荒さが神経にこたえようとも、どしどし叱られ殴られ罵られ、此方からも罵り返して、身を以てあの猿から凡てを学び取らねばならぬ。遠方から眺めて感嘆しているだけでは何にもならない。

『狼疾記』
(世界は)決して、大きくも深くも美しくもなりはせんのだ。逆に細部を深く観察し、それに積極的に働きかけることによって、世界は無限に拡大されるんだ。
何故もっと率直にすなおに振舞えないんだ。悲しい時には泣き、口惜しい時には地団太を踏み、どんな下品なおかしさでもいいから、おかしいと思ったら、大きな口をあいて笑うんだ。世間なんぞ気にしていないようなことを言って置きながら、結局、自分の仕草の効果をお前は一番気にしているんじゃないか。もっとも、お前自身が心配するだけで、世間ではお前のことなんか一向気をつけていないんだから