評価:B+
【粗評】
やわらかいのとカタイノト。
ユッキーの劇作家としての才が存分に現れている。緻密な構成。
戯曲であるせいかいつもより会話や比喩のオシャンティ度が六割増。
世界級の比喩をこれでもかと繰り出してくる。美文のために読むもよし。
記憶のあちこちに落ちちらばっていた紅玉の一粒一粒が、
今俄かに一連の頸飾りになったのなら、私はそれを大切にしなければならない。
身の宝にしなければならない。
もしかすると記憶も届かない古い昔に、私の頸飾りの糸が切れ、
そのとき落ちちらばった紅玉を、今やっと元の形で取り戻したのかもしれないから。
でももう私の中では、アルフォンスと罪は一心同体、
あの人の微笑と怒り、あの人のやさしさと残虐、
あの人が私の絹の寝間着を肩から辷らしてくれるときの指さきと、
マルセイユの娼婦の背中を打つ鞭を握っている指さきとは、一心同体なのでございますわ。
娼婦に鞭打たれたあの人の真赤なお尻は、そのままあのけだかい唇と清らかな金髪へ、
どこからどこという継目もなしに、つながっているのですわ。
充ち足りると思えば忽ちに消える肉の行いの空しさよりも、あの人は朽ちない悪徳の大伽藍を、築き上げようといたしました。
点々とした悪業よりも悪の掟を、行いよりも法則を、快楽の一夜よりも未来永劫につづく長い夜を、
鞭の奴隷よりも鞭の王国を、この世に打ち建てようといたしました。
ものを傷つけることだけに心を奪われるあの人が、ものを創ってしまったのでございます。
何かわからぬものがあの人の中に生れ、悪の中でもっとも澄みやかな、悪の結晶を創り出してしまいました。
あの人は飛ぶのです。天翔けるのです。
銀の鎧の胸に、血みどろの殺戮のあと、この世でもっとも静かな百万の屍の宴のさまをありありと宿して。
あの人の冷たい氷の力で、血に濡れた百合はふたたび白く、
血のまだらに染った白い馬は、帆船の船首のように胸を張って、朝の稲妻のさし交わす空へ進んでゆく。
そのとき空は破れて、洪水のような光りが、見た人の目をのこらず盲らにするあの聖い光りが溢れるのです。
アルフォンス。あの人はその光りの精なのかもしれませんわ。
からのハイパー手のひら返し。
マッシヴなのもあるよ。
軍隊こそ男の天国ですよ。
木の間を洩れる朝日の真鍮いろの光りは、そのまま起床を告げる喇叭のかがやきだ。
男たちの顔が美しくなるのは軍隊だけです。
日朝点呼に居並ぶ若者たちの金髪は朝日に映え、
その刃のような 青い瞳の光りには、一夜を貯えた破壊力が充満している。
磨かれたピストルも長靴も、目ざめた鉄と革の新らしい渇きを訴えている。
若者たちは一人のこらず、あの英雄的な死の誓いのみが、
美と贅沢と、恣な破壊と快楽とを、要求しうることを知っているのです。