Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

宴のあと

著者:三島由紀夫
評価:B+

【評】
熟年夫婦の宴がはじまり、おわる。
かづと野口、対照的なふたりが、老いらくの恋に見舞われ、
やがて政治的立場の違い、性格の違いによって破局を迎えるまでを描くぞい。
政治的しがらみがなければ、ふたりは出逢うこともなかったであろう。

ユッキィ随一の読みやすさを誇る。いつもはまばゆいばかりのレトリックも今回は控えめ。
心理や挙措、言葉のやりとりに作者の観察眼がうかがえるぞい。
とくに恋するBBA・かづには、「乙女か(‘ε‘///)」とつっこんでしまったぞい。
本書がプライバシー裁判にハッテンしたことはあまりにも有名。

こんな独りよがりの老人の媚態は、やすやすと回想を未来に結び、凋んだ記憶の中の洋蘭と活きた洋蘭とを同列に置き、こうして丹念に編んだ陰惨な花環の裡に、かづを閉じこめてしまおうとしているように思われた。

野口はかづが彼の原理に忠実について来ることを要求したけれど、かづのほうは野口が彼の原理について来るなどという高望みを抱いてはいなかった。
(中略)
そしてかづは、こうした活力の孤独を知っていただけに、死後の孤独をいつも怖れていた。

しかし遠くから、かづを何ものかが呼んでいる。いききとした生活、多忙な毎日、大ぜいの人間の出入り、しじゅう燃えさかっている火のようなものがかづを呼んでいる。
そこには断念も諦観もなく、むつかしい原理もなく、世間は不実であり、人間は皆気まぐれで、その代り酩酊と笑いとがのびやかに湧き立っている。

あなたはやはり暖かい血と人間らしい活力へ還って行かれるべきでしたろうし、野口氏も高潔な理想と美しい正義へ還って行かれるべきでしょう。残酷なようですが、第三者の目から見ると、すべては所を得、すべての鳥は塒に還ったのです。