Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

銀河鉄道の夜 他十四篇

著者:宮沢賢治 編:谷川徹三
評価:B+

【概要】
自然科学と宗教の風味を纏ったケンヂ童話集。『銀鉄』『注文』以外にも意外といいのがあるよ。風と水と土と光とほんたうのさいはひを求め、さあ冒険だ!

【詳細】
賢治の心象スケッチ童話集。
サイコパス揃いの『蜘蛛となめくじと狸』、クレーマーの『ツェねずみ』など、寓意感(労資闘争、堕落や悪行への警句)が強いものもあるが、
「梟鵄守護章」が妙に作りこまれた仏教説話風の『二十六夜』、架空ディベートの『ビジテリアン大祭』、
「どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように、早くこの世界がなりますように、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまいません」との悲痛な願いの込められた『からすの北斗七星』など、ひたむきで少しさみしいものもある。

でもやっぱり、『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』二者の完成度が高い。

銀河鉄道の夜
紫に煌めく天の川と、燐光の三角標、時空間を超越した透明な世界。そして漂う一抹の淋しさ。
鳥捕りやきょうだいとの出会い、カムパネルラとの別れ、ほんたうのさいはひ3段進化を見届けよ。

①「ぼくはそのひとのさいはひのためにいったいどうしたらいいのだろう」
②「僕はもう、あのさそりのようにほんたうにみんなの幸いのためならば僕のからだなんか、百ぺん灼いてもかまわない」
③「僕、もうあんな大きな闇の中だってこわくない。きっとみんなのほんたうのさいはひをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たちいっしょに進んで行こう」

さあ、切符をしっかり持っておいで。おまえはもう夢の鉄道の中でなしに、ほうとうの世界の火やはげしい波の中を大股にまっすぐに歩いて行かなければならない天の川のなかでたった一つのほんとうのその切符を決してお前はなくしてはいけない。

賢治に少しでも興味のある人は、又三郎詩集にも手を出したり、記念館に行ったりすべき。
プラネタリウムも上記雰囲気醸成にはいいよ。

<表現編>

「ツェねずみ」や「ザネリ」など、ふつうの神経では絶対思いつかない名前のセンス、いいよね。
ボローン(裂ける音)・うらうら(星の湧く音)・ぽくぽく(雁の足を食べる音)・ドーン、グララアガア(象がなだれ込む音)などのオノマトペ
そしてテンポのいい表現と比喩。
「六寸ぐらいのビフテキの、ぞうきんほどあるオムレツの、ほくほくしたのをたべるのだ」
「ぼくの影法師はコムパスだ。あんなにくるっとまわって、前の方に来た」

なかでも、銀河ステーション出現のシーンと旅の終わりの描写がよかった。
まるで億万のほたる烏賊の火を一ぺんに化石させて、そらじゅうに沈めたというぐあい、またダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと獲れないふりをしてかくしておいた金剛石を、だれかがいきなりひっくりかえしてばらまいたというふうに、目の前がさあっと明るくなって、ジョバンニは思わず何べんも目をこすってしまいました。

するといきなり、ジョバンニは自分というものが、じぶんの考えというものが、汽車やその学者や天の川やみんないっしょにぽかっと光って、しいんとなくなって、ぽかっとともってまたなくなって、そしてその一つがぽかっとともるとあらゆる広い世界ががらんとひらけ、あらゆる歴史がそなわり、すっと消えると、もうがらんとしたただもうそれっきりになってしまうのを見ました。