評価:B+
【概要】
『虫めづる姫君』『ほどほどの懸想』『はいずみ』『貝合』などの秀作十編をつつんだ平安アンソロジー。話の運び方や型、オムニバス形式など、現代でも通用する手法がこれでもかと盛り込まれれている。なにより古語のかずかずから感じられる、いつの世も変わらぬ行動や真情に微笑まざるを得ない。
【詳細】
<明日から使えるwords & phrases集>
「ねぶたげにうちあくびつつ」「うしろ見給ふほどねたげなり」
「いみじくしたり顔なるに」「夢のやうにうれしと思ひけり」
「あな、あさまし。いかでか」「うしろよりにはかに、ばひとり給ひつる」
「さらばまたまたも」「まづ、いるべきものどもよな」
行為者が分かりにくく疲れるが、注釈が親切なので何とか読める。
『虫めづる姫君』
よろづの虫の、おそろしげなるをとりあつめて、「これがならむさまをみむ」とてさまざまなる籠箱どもに入れさせ給ふ。
「かは虫の、心ふかきさましたるこそ心にくけれ」
とて、明け暮れは、耳はさみをして、手のうらにそへふせて、まぼり給ふ。
いと白らかにゑみつつ、この虫どもを、朝夕に愛し給ふ。人々おぢわびて逃ぐれば、その御方は、いとあやしくなむののしりける。
いぼじり(かまきり)、かたつぶりなどをとり集めて、歌ひ、ののしらせ聞かせ給ひて、われも声をうちあげて、たまにいいことも言う。
「かたつぶりのつのの、あらそふや、なぞ」
といふことを、うち誦じ給ふ。
「よろづのことどもをたづねて、末をみればこそ、ことはゆゑあれ。いとをさなきことなり。かは虫の蝶となるなり」他にも、
「さりとも、これにはおじなむ」(蛇のつくりもの投入)
⇒君はいとのどかにて、「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」とて、「生前の親ならむ。なさわぎそ」
の虫耐性はさすがだ。
『ほどほどの懸想』
…と、おしはなちていらふもされたり。「あな聞きにくや」とて、笏して走りうちたれば、「そよ、なげきの森の、もどかしければぞかし」など、ほどほどにつけては、かたみにいたしなど思ふべかんめり。そののち、つねにゆきあひつつも語らふ。あどけない。
『貝合』
「今かたへに聞き給ひつや。これは、たがいふべきぞ」あどけない。
「観音の出で給ひたるなり」
「うれしのわざや。姫君の御まへに聞こえむ」
『はいずみ』
ヘタレ夫と古妻の元サヤで終わらずに笑えるオチをつけるのは優秀。
…といへば、「さもあらむ」と思ひて、とまりて、尻うちかけてゐたり。
いかにせむとおそろしければ、近くもよらで、
「よし、今しばしありて参らむ」
とて、しばしみるもむくつけきなれば、去ぬ。
おびえて、父母も倒れふしぬ。