僕たちの前には未だ巨大すぎる人生が茫漠とした時間がどうしようもなく、横たわっていた。
時間ははっきりした悪意を持って、僕の上をゆっくりと流れていった。
<桜花抄>
物語は美しくもそこはかとない悲しさをまとって、僕らの上をゆっくりと流れていく。
東京のコンクリートジャングルが美しく懐かしい風景に変わる。
田舎の電車のドア、ボタン押さないと開かないのよね。そして「普通 20:15 上り 高崎 6」の絶望感ね。
「空気は冬の日の都市の独特のにおいに満ちて、冷たかった」
「窓の外の見たことのない雪の荒野も、じわじわと流れていく時間も、痛いような空腹も、僕をますます心細くさせていった」
くどいくらいの抒情的なモノローグが持ち味だね。
たった一分がものすごく長く感じられ、
時間ははっきりした悪意を持って、僕の上をゆっくりと流れていった。
僕はきつく歯を食いしばり、ただとにかく、泣かないように耐えているしかなかった。
結局4時間以上遅れて到着するも、駅の待合室には明里の姿が。
久闊を叙し、雪ふる闇夜の下キッス。そのあとは納屋で一つ屋根の下、毛布にくるまって夜を明かす。ジュヴナイル!!!
その瞬間、永遠とか心とか魂とかいうものが、どこにあるのかわかったような気がした。
13年間生きてきたことのすべてを分かりあえたように僕は思い、
それから、次の瞬間、たまらなく悲しくなった。
明里のそのぬくもりを、その魂を、
どのように扱えばいいのか、どこに持っていけばいいのか
それが僕にはわからなかったからだ。僕たちはこの先もずっと一緒にいることはできないと、
はっきりとわかった。
僕たちの前には、未だ巨大すぎる人生が、茫漠とした時間が
どうしようもなく、横たわっていた。
でも、僕をとらえたその不安はやがてゆるやかに溶けていき、
あとには明里のやわらかなくちびるだけが残っていた。
長いわ!!!
ひたすら深宇宙をめざし驀進するロケットに自身を重ね合わせる貴樹君。
いま、明里はどうしているのかな…。
「遠野君がいる場所に来ると、胸の奥が少し、苦しくなる」
「彼はやさしい。ときどき泣いてしまいそうになる」
花苗に乗り換えたように見えるが全然乗り換えていない。
むしろ症状が悪化している。遠くを見ている遠野君、花苗も見てよね。
それは、本当に、想像を絶するくらい孤独な旅であるはずだ。
本当の暗闇の中をただひたむに、
ひとつの水素原子にさえめったに出会うことなく、
ただ、ただ深遠にあるはずと信じる世界の秘密に近づきたい一心で、
僕たちはそうやって、どこまで行くのだろう、どこまで行けるのだろう。
遠野君はやさしいけれど、とてもやさしいけれど、
でも、遠野君はいつも私のずっとむこう、もっとずっと遠くを見ている。
カブ、NASDAのロケット運搬車、蝉しぐれなどのエモアイテムが端々に登場。神器のケイタイも登場。宛先のないメールつくっては消すとか、一途に明里の面影を追っているとか、女の子から惚れられるとか、そんな妄想が新海新海していて良くも悪くもいい感じ。
「時速5キロなんだって」のパロ具合
<秒速5センチメートル>
物語はまさよしの曲を丸々使用しての、もの悲しい終幕へ。
身近な月には目もくれず、ひたすら心の中に輝く深宇宙のあかりを見つめつづけ、
心を亡くし、純情を失ってしまった貴樹君。
さっそくBadEndな「君の名は。」的すれ違い、そして踏切を通過する電車。
タバコに缶ビール、「気づけば、日々弾力を失っていく心が、ひたすらつらかった」。
そしてある朝、かつてあれほどまでに
真剣で切実だった想いが、きれいに忘れ去られていることに僕は気づき
もう限界だと知ったとき、僕は会社を辞めた
いつでもぉ~♪ 描かれなかったときをダイジェストでたどる。
あなたのことは今でも好きです。でも私たちはきっと1000回もメールをやりとりして、たぶん心は1センチくらいしか近づけませんでした。
踏切で擦れ違って、ハッとして、振り向くと電車がドーーーン。
電車の去った後には誰もいない。一歩を踏み出した彼の顔には微笑があった。
これぞ新海。
彼の第二の生に幸多かれと祈るばかりである。
※当たり前だけど、メガネの水野さんはあかり篠原じゃないよ。
私は初見時に勘違いしていたけど。
<その他>
- 人物の質感と背景の差。
- 空と雲、光と影。モノローグ。引き裂かれる二人。時間の流れと距離の隔たり。改めて観ると作家性の連続がある。