著者:井伏鱒二
評価:B+
【評】
鱒二は詩人でもあった。
『なだれ』
峯の雪が裂け
雪がなだれる
そのなだれに
熊が乗つてゐる (←!?)
あぐらをかき
安閑と
莨をすふやうな恰好で
そこに一ぴき熊がゐる (←!)
鱒二オリジナルの中では、
『なだれ』『つくだ煮の小魚』『石地蔵』『按摩をとる』
『魚拓』『つらら』『緑蔭』『縄なひ機』『水車は廻る』『夜の横町』『紙凧』『蟻地獄』
などが良いか。
土の匂い、土のごとき暖かな視線を感じた。
また漢詩も捨てがたい。というかこっちのほうが有名。
調子の良い「ヨヨイのヨイ」調で訳される漢詩に
鱒二が調薬した言葉は跳躍し、超訳を生む。
漢詩は『春暁』『静夜思』『歓酒』『秋夜寄丘二十二員外』 あたりが良いか。
『勧酒』 干武陵
勧 君 金 屈 巵 コノサカズキヲ受ケテクレ
満 酌 不 須 辞 ドウゾナミナミツガシテオクレ
花 発 多 風 雨 ハナニアラシノタトヘモアルゾ
人 生 足 別 離 「サヨナラ」ダケガ人生ダ
原作を生かしつつ自分の味も出す、
なかなかこう伸び伸びとできるものではない。