Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

五重塔

著者:幸田露伴
評価:B+

【評】
義理も人情も擲ち、五重の塔建立に向け驀進するのっそり十兵衛のお話。

落語調の半文語体は、まさに「味わう」文章というにふさわしい。
終盤の暴風雨の表現なんてもう。圧倒されるで。

その夜の事、五重塔を汝作れ今直つくれと怖しい人に吩咐られ、狼狽て飛び起きさまに道具箱へ手を突込んだは半分夢で半分現、眼が全く覚めて見ますれば指の先を鐔鑿につつかけて怪我をしながら道具箱につかまつて… 
其夜からといふものは真実、真実でござりまする上人様、晴れてゐる空を見ても燈光の達かぬ室の暗いところを見ても、白木造りの五重の塔がぬつと突立つて私を見下してをりまするは…
 闇に揉まるる松柏の梢に天魔の号びものすごくも、人の心の平和を奪へ平和を奪へ、浮世の栄華に誇れる奴らの胆を破れや睡りを攪せや、愚物の胸に血の濤打たせよ、偽物の面の紅き色奪れ、斧持てる者斧を揮へ、矛持てる者矛を揮へ、汝らが鋭き剣は餓えたり汝ら剣に食をあたへよ、人の膏血はよき食なり汝ら剣に飽まで喰はせよ、飽まで人の膏膩を餌へと、号令きびしく発するや否、猛風一陣どつと起つて、斧をもつ夜叉矛もてる夜叉餓えたる剣もてる夜叉、皆一斉に暴れ出しぬ。