著者:谷崎潤一郎
評価:A
【粗評】
ジュンジュン渾身の作。関西弁。
名家の美人4姉妹というファンタジー設定も大谷崎の手にかかればこの通り。
『細雪』は雪子の「雪」か、はたまた三姉妹の自由な交わりの終焉を意味するのか。
まあそんな細かいことはともかく、
そうだ 蘆屋、行こう。
会話を読点で連結した艶のある「延び延び」文を駆使して、
微にいり細にいり
三姉妹らの容姿や性格を丹念に描写。
仲の良い貞之助・幸子夫婦、
雪子のシャイっぷり、妙子のヴァンパイアっぷり。
登場人物の心理戦にも注目。細やかな心の動きを追う。
応対や見送り、手紙にみえる本音と建前。人づきあいという名の熾烈な闘争。
起伏の少ないストーリィながら、ずぼずぼ読ませるのはさすが谷崎はん。
右上(左上)の頁数を見るのをたびたび忘れるほどやったで。
基本的には幸子視点で物語が進行。
雪子が縁付いたところで終幕。
花見や蛍狩などの行事のときはもちろん、
日々の些細な一齣一齣にも美が煌めく。
1936~1941年を舞台にしているだけあって時事ネタがときおり顔を出す。
作品中だけでなく、リアル世界でも時局の掣肘を喰らった模様。
んな細かいこと気にしとる暇があったら人間死なさんことに気ィ遣ってくれや。
今更ながら特急、電話、タクシー、速達などスピードを増していく世界に恐怖。
もうあの頃には戻れないけれど、現代版脳内細雪を逞しくして生きていこう。