著者:太宰治
評価:B+
【粗評】
DZI-OSM中期の佳作。表題作と『正義と微笑』二作を収録。
青春の中で一喜一憂する主人公。作品中には希望にあふれたまっすぐ明るい雰囲気が充溢している。
分量は中編程度ながらもグイグイ読ませるのはさすが。そこここに青春の心が
太宰中期の良さを味わいたいキミに(・ε・)
中でも、『正義と微笑』序盤の黒田先生の言葉に
(・ε・)→(;ε;)不可避。
もう君たちとは
逢 えねえかも知れないけど、お互いに、これから、うんと勉強しよう。
勉強というものは、いいものだ。
代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。
植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。
日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。
何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。
覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。
カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記 している事でなくて、心を広く持つという事なんだ。
つまり、愛するという事を知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。
学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。
けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。
これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。
そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。
ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ!
これだけだ、俺の言いたいのは。
君たちとは、もうこの教室で一緒に勉強は出来ないね。
けれども、君たちの名前は一生わすれないで覚えているぞ。
君たちも、たまには俺の事を思い出してくれよ。
あっけないお別れだけど、男と男だ。あっさり行こう。
最後に、君たちの御健康を祈ります。