【概要】
著者(監督):渡辺惣樹
下田の玉泉寺で売っていたので。意外や意外、語り口が軽妙で地球儀を俯瞰している感じがおもろい。著者は下田出身でJTアメリカ支社にも勤務経験あり。
最新鋭艦を含む当時のアメリカ海軍のおよそ四分の一を使ったペリー提督の開国交渉の精力的な様と、ハリス総領事を下田港に「捨て置いた」その後のアメリカ外交にはあまりに不自然な落差があった。
ことが気になっていた著者、ズバリ違和感の理由は。
アメリカ本土と最大の貿易利益を生み出す清国とのロジスティックスルート(太平洋シーレーン)を構築するための一作業が日本開国であったのである。だからこそアメリカの当面の目的は開国を実現させた日米和親条約(1854年)で終わっていた。
世界各地で起きている事件は、一見なんの関連性もない。ニューヨークでの決闘事件やパナマ運河開削プロジェクト、あるいは江戸末期の将軍や幕閣の起こした事件の間には、何の脈絡もなさそうである。しかし、そうした事件を小さな氷の塊とみてカクテルシェーカーのなかに放り込んでみると、ゆっくりと氷解し、「太平洋シーレーン」が姿を現してきたのである。
いろいろな各国の歴史的な資料を渉猟し執筆。著者の知識の幅もすごくないか。オペラとか、海上から山の頂が目に入る距離の推算式とか。語り口がちょっと色っぽい。「プレイボーイが評判の美人に憑かれたように目をつけ、籠絡に成功したとたんに興味を失ってしまう。そんな態度に似ている」「家斉はどうも粗製濫造の感」など。
ビジネスで鍛えた交渉の肌感と極意をベースに、強硬なふりをしつつ妥協点を探る日米外交団の駆け引き、意図的な翻訳ミス(説)を紙面に復元せんとする。
両者の主張にどれほど隔たりがあっても、それぞれに落としどころ(妥協点)を探り続ける意志さえあれば折り合いはつくものです。
【詳細】
<目次>
- ハリス来日の違和感
- 幕末知識人のバイブル
- 家斉の絶頂
- 流出する国防情報
- 運河開削ベンチャーの頓挫
- 弁財船漂流
- 頼山陽の死と関藤藤陰
- 宣教師の死
- 「泳ぐ石油」
- シャルウィダンス?
- 富士は見えたか?
- 不況はチャンス
- 新旧の確執
- イギリスの正義、宣教師の正義
- 決闘、アメリカの騎士道
- 感応寺破却
- ヒッチハイキング帝国主義
- 『日本外史』出版
- 大統領の若妻
- 江戸に来たガリバー
- 救「鯨」主
- 「アメリカ」誕生
- 逃亡者と冒険者の表現
- 「対日戦争計画書」
- 仮想敵国「英蘭連合」とパナマ運河
- 伝えられなかった情報
- ペリー任命と世論工作
- 「ニューヨーク-太平洋ハイウェイ構想」
- 本当だったオランダ情報
- 混沌の支那大陸
- 誤訳のトリック
- 男たちのその後
- タウンゼント・ハリスの孤独
- センチメンタルチャイナ
<メモ>