【概要】
著者(監督):ベント・フリウビヤ ダン・ガードナー 櫻井祐子 訳
著者、大型プロジェクト(各種発電、土木建築、資源開発、巨大プラント、IT、オリンピックなどなど)のデータベース構築がライフワーク。調査の結果、「1910年から1998年までに実施されたプロジェクトのコスト見積もりは、最終コストを平均28%も下回っていた」。また、プロジェクトのQCDを調査したところ、予算内:47.9%、予算+工期内:8.5%、予算+工期内+便益達成:0.5%という悲惨な結果が判明。いかに未来予測が非常に困難であるか、というか人間が楽観的に未来を予測するかがわかる。承認側への心象をよくするために低めの予算を出すという権力勾配的な面もある👀
1930年代のエンパイア・ステート・ビル建設、グッゲンハイム・ビルバオ、ヒースロー空港T5新設といった例もあるが、好例は非常に少ない。シドニーのオペラハウスやオリンピックなどの大規模イベント(そして高速増殖炉もんじゅも)も、その多くは予算・工期内に収めるという点では大失敗プロジェクトと言わざるを得ない。
いくつか巨大プロジェクト運営の「ゆっくり考え、すばやく動く」ことが何より重要。Feasibility StudyやFEEDにじっくり時間と予算をかけて基本設計を可能な限り緻密化し、EPCコストや不確実性を最小化すべし。前工程の失敗は後工程では挽回困難。人間の陥りがちな心理メカニズムや権力勾配に負けずに、理性で不確実性の手綱をしっかり握ることを心掛けたい。
終盤に出てくる対策はスモールシング戦略。なるべく細かくモジュール化し、分割・並列化し、反復・習熟しやすいものとしてリスクをマネジメントせよと。スペースX、小型モジュール炉(SMR)、太陽光・風力が例として挙げられる(マイクロ化学リアクタも?)。そして、今世紀は気候変動問題解決のためにかつてないほどのPJが必要と宣言。PMの大量生産が必要。そうくるか。
【詳細】
<目次>
- ■1章 ゆっくり考え、すばやく動く
人は危険なほど「楽観的」になる
もっと「前」に時間をかける - ■2章 本当にそれでいい?
人は慎重に考えるより早く1つに決めたい
常に「ベストケース」を想定している - ■3章 「根本」を明確にする
「なぜそれをするのか」をまず固める
目的を見失うと「顧客」が消える - ■4章 ピクサー・プランニング
ピクサーは「灰色のモヤモヤ」から始める
木も森も見る - ■5章 「経験」のパワー
最初から「貯金」がある状態で始める
先行者利益は「ほぼ幻」である - ■6章 唯一無二のつもり?
「1年あれば終わる」が7年かかったわけ
先人から「あてになる予測」をもらう - ■7章 再現的クリエイティブ
計画段階でこそ「創造的」になれる
「見直す」ほうが早く終わる - ■8章 一丸チームですばやくつくる
必要なものを「ただち」に支給する
利害が一致すればおのずと「協力的」になる - ■9章 スモールシング戦略
「ブロックのように組み立てられないか」
と考える
巨大だと「完成」するまでお金を生まない - ■終章 「見事で凄いもの」を創る勝ち筋
<メモ>
- 〇:1930年代のエンパイア・ステート・ビル建設、デンマークのネパール学校建設 グッゲンハイム・ビルバオ、ボーイング747初号機、初代iPod、Amazon Prime、ピクサーの「インサイド・ヘッド」制作プロセス、ヒースロー空港T5新設…。
- ×:シドニーのオペラハウス、多くのインフラ・建築・ITプロジェクト、オリンピック、我らが高速増殖炉もんじゅなどのPJ、小さいところではキッチンリフォーム、書籍執筆…。
- PJの種類によってロングテール(≒頻度分布の幅)の度合いが違う。数%から数百%オーバーまでPJの種類ごとに全然違う。
- 「<何のために、なぜやるのか>を明確に理解すること、そして最初から最後までそれをけっして見失わないことが、成功するプロジェクトの基本である」
- 緻密な計画がカギ。
- 技術は凍れる「経験」⇒なるべく枯れた技術を使うべし(他者の後追いでOK)
- 何がリスク要因かを明確化し、可能な限り定量化する。
- 確率的なマージン(危険費)は過去のDBを参照しベンチマークとする(参照クラス予測法(reference Class Forecasting))。
- 海外でも炎上PJの方が印象に残るらしい。