Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

グローバル設備投資 プロジェクトマネジメントとコストダウン理論

グローバル設備投資: プロジェクトマネジメントとコストダウン理論 (ATP Methods シリーズ) 

【概要】
著者(監督):古河昌史

化学メーカー設備屋向け。業界あるあるが豊富にあってなかなか面白く読める(Kindle版のみ)。「本書の目的は“読者の皆さんがかかわるグローバルプロジェクトにおける設備投資の金額を、実践的な手法で 30%削減すること」であると宣言。特にグローバル投資案件で日本企業の投資コストが跳ね上がる理由を、そのガラパゴスぶりを痛烈に批判しつつ解説。最後には処方箋を提示する。とりあえずオーナー側で詳細設計してから世界のエンジニアリング屋さんに相談するようにします。

簡単な始め方として、詳細設計をできるだけ進める、海外取引先の調査を進める、直接取引のための準備を進める(たとえば英文契約書とか、ドル送金手続きなどです)といった、個別の手法を少しずつで良いので挑戦し続けてください。

 

【詳細】
<目次>

  • 第一章 コストダウンの重要性とその障害
  •  本書の目的設備投資額をなぜ削減しなくてはならないか?
  •  コストダウンの本当のメリット
  •  コストダウンと人材育成
  •  日本企業のおかしな習慣
  •  日本式ランプラム契約
  •  エンジニアリングの歴史
  •  正統派エンジニアリングの欠点
  •  中小規模投資のジレンマ
  •  コストダウンに対する障害
  •  第一章のまとめ
  • 第二章 問題点の分析
  •  第二章の目的
  •  市場予測と投資計画
  •  自社見積もり(インハウス積算)能力
  •  意思決定までのプロセスの遅さ
  •  技術的仕様書や設計関連資料
  •  調達、発注先に関する問題点
  •  エンジニアの専門性の欠如
  •  詳細設計段階での問題点
  •  カイゼンという害悪-調達における問題
  •  製作管理、建設工程管理および検査における問題
  •  パートナーシップの欠如
  •  合成の誤謬
  •  第二章のまとめ
  • 第三章 国際プロジェクトのマネジメントとコストダウン理論
  •  第三章の目的
  •  強力なトップダウンと適切なマネジメント
  •  コストダウンへのモチベーション
  •  プロフェッショナルによる少数精鋭チーム
  •  市場予測と投資のタイミング―経営判断の重要性
  •  コスト、品質、建設期間のバランス―工期がコストに与える影響
  •  立地の検討とプロセス設計
  •  契約書、仕様書の作成と見積もりの所得
  •  詳細設計をいつ進めるか?
  •  建設会社の選定および発注メーカー調査と設備調達、購買
  •  建設管理と検査
  •  第三章のまとめ
  • 第四章 海外設備投資の進め方
  •  第四章の目的
  •  設計の開始
  •  ベンダ ーサーベイ
  •  見積もりと発注
  •  建設工事の管理と検査
  •  トータルコストダウン
  •  第四章のまとめ
  • 第五章 コストダウンの検証
  •  第五章の目的
  •  インハウス工数の増加とトータルコストダウンの比較
  •  生産性の比較検討―コストダウンの複利効果
  •  第五章のまとめ
  • 第六章 エンジニアリング業界における日本の問題
  •  第六章の目的
  •  日本企業の生産性低下とその原因
  •  企業が変わるべきこと
  •  日本社会が変えるべきこと
  •  第六章のまとめ
  • 第七章 終わりに
  • 著者略歴

 

<メモ>

★設備投資コスト削減の意義

  • 減価償却費が製品の原価に占める割合は原材料などの他の項目に比べてとても小さいことが一般的です」
  • ⇒「なぜ設備投資コストを下げる必要があるのでしょうか? 売り上げの利益率を改善するわけでもなく、 ROIなどの指標もあてにならないのであれば、いったいどこにそのメリットがあるのでしょうか?」
  • ⇒「本当のメリットはこのキャッシュフローへの影響なのです」
  • ⇒「設備投資のコストダウンでは容易に達成可能なのです。つまり、10億円の工事を 30%コストダウンするということは、 100億円の売り上げを上げるのと同じキャッシュ効果を持つということなのです」
  •  ⇒「現時点では、メーカーにおける設備関連技術者は、会社への利益貢献の観点から、減点法でしか評価されないつまらない部署だと思われがち」だが、必要最小限のコストで要求仕様を達成するやりがいはある。 

 

★コストが膨らみがちなワケ

  • 「メジャーと呼ばれる大手石油会社は標準を積極的に採用し、また自社でも作成しました。その内容たるやまさに圧巻で、製作方法や材料、検査方法やそのレポーティングの方法まで事細かに規定しており、小さなタンク一つ設計するために電話帳のように分厚い仕様書が 5冊も届いてしまうような有様」。「大手石油会社のように、詳細まで規定したうえで正式な契約に至るのが王道で正統派エンジニアリングなのですが、そんな高度なエンジニアリングを展開できないのがほとんどの日本の製造業の実態なのです」
  • ⇒そんな能力のあるオーナーは少ないので、彼らのフワッとした見積もり要求に対し危険費を見込んでベンダーは高めの見積もりを出す。
  • ⇒「しかしながらトータル建設コストの観点からこのシステムには大きな欠点があります。それは、おおざっぱな仕様から計算された見積もり金額が、建設原価に対して、必ず割高になるということです」。「要するに、リスクをお金で補うわけです」。
    ⇒「一般的に買い手側企業(施主)の社内稟議で認められる予備費はせいぜい 5%程度です。30%を超える予備費を織り込んだ見積もりを提出することは、決して少なくありません」「社内の予算会議では 5%の予備費を削るかどうかで激論している一方で、元受側の見積もり精度から生じる 30%にもなる予備費について、議論の手段もない状況はまさに本末転倒で、滑稽にすら感じます」

 

★国際プロジェクト業務やマネジメントのコツ

  • 「国際社会では買い手側にも売り手と同じく対等で重大な責任があるのです」。
  • 「海外のプロジェクトでは議事録は必ず自分でまとめてください」。「相手にコントロールしてもらうのではなく自分でコントロールする、これがグローバルプロジェクトでの鉄則です」。「お互いを大切なビジネスパートナーとして尊重しあう姿勢こそが最も大切なルールでマナーです」「思い付き」や「適当な指示を絶対に出してはなりません」。
  • 「現場の作業者に、ある程度自由に作業させたほうが生産性は間違いなく向上します」。「管理というのはマネジメントのほんの一部」で、「管理が必要なのはメンバーの作業に間違いがあるときだけです」。「プロジェクトマネジメントにおいて重要なのは、管理ではなく、むしろ計画、伝達、モチベーションの 3つの要素」。「コストダウンには少数精鋭のプロフェッショナルメンバーが不可欠」で「失敗は常に上層部の人間の責任」。
  • 「混雑して人目のある環境では人間の受けるストレスが大きくなる」し、人のパフォーマンスは「唯一心理的安全性によってのみ大きく向上する」。「困難な状況に陥ったプロジェクトを改善するためには、リラックスした楽しい議論が大きな役割を持ちます」。

 

★コストダウンの要諦

⓪投資時期の経営的判断

  • 「設備投資のタイミングですが、他の投資と同様に景気の底で行うことが最も効率が良いのです」。「適切な経営判断こそが、コストダウンの最重要ファクタ」。

①詳細設計の早期完了(危険費の圧縮)

  • 「コストダウンを狙うためには、元受会社へ発注する前に詳細設計を開始する必要があるのです」。「一般的に P& ID、機器データシート、配置図類に加えて、正確に以下の情報がそろえば設計は完成です。 機器メーカーに発注が可能となるレベルの機器データ、ケーブル・配管や鉄骨など材料の定量的数値が把握できる資料( B/ Q: Bill of Quantity、物量表ともいいます)」。
  • 「プロセス設計はすべての設計の出発点であり、最も重要なデータの集積です。コスト、品質、工期の最適化のために、最も多くの時間とリソースをかけて検討すべき部分」で、「性悪説に立ってミスが発生できない設備をプロセス設計の段階で構築しておく必要がある」。必要なのは「より“ Detailed”な資料、具体的な資料を準備することなのです。詳細ではなく、具体的な資料です」。

②ローカルエンジ会社の採用と直接発注

  • 日系エンジ会社への発注においては、「管理費は日系元受会社とローカル会社との、 2重に発生することになります」。そして、「保守的な日本の企業では、海外に建設する設備のほとんどを日本からの輸入機器で賄っているようなプラントも少なくありません」。安くてかつ「できるだけ現地で汎用性の高い設備を選定することが重要」。
    ⇒コスト削減にあたって必要なのは「すなわち、ローカルの採用と直接発注の 2つだけです」。相当な能力が求められそうだが…。

    ★オーナーズエンジニアに求められる能力
  • オーナー側はエンジ会社の成果物「検査( Inspection)と進捗管理( Expedite)」を両立できる品質管理が必要。でも「傷など無き事」などのフワッとした品質要求ではその基準があいまいなままになってしまう。「専門性が低く適切な検査や判断ができないために、責任逃れやリスク逃れのために不要なほど過剰な要求を出してしまうようです」。
  • 「大切なのは、彼らにいま何ができるかを技術的に判断する能力です」。「仕様をできるだけ明確に具体的に記載し、双方で“完全合意”することが国際取引における契約です」。
  • 「自分がわからないことに対して無駄に高い仕様を要求しては、健全なコストでプラントを建設することはできません」。「動いて当然」と思われているので、「設備エンジニアは減点評価をうけやすいためリスクを避ける傾向にあります」。「必要最小限を実現する」のが醍醐味。
  • 「毎日発生している無駄な作業を切り詰め、コストダウンのために労働力を投入することは非常に価値のあることなのです」「30%のコストダウン(投資増加)で、 70%増のリターンを継続的に得ることができる」。「そこで、設備投資のコストを大幅に下げるためには、組織そのものの毎日の習慣やシステムを効率化していく必要があります」。

 

★メッセージ

  • 「詳細設計を前もって進めることは、化学工学上の大きな研究開発業務」である。「研究開発によって得られる知的財産により近い資産であり、研究データより現実的で実用的な知財であることは間違いありません」。
  • 「つまり、国際競争力を高めるためには、設備投資を開始する前にコストをかけて設計作業を開始する必要があるからです」。
  • 「できるだけ若い時期に多くの会社で様々な知識を吸収しできる限り多くのプロジェクトに関与することは、エンジニアの成長にとって必要不可欠なのです」。「筆者は若年層へのお金の配分を増やすことが、優秀な技術者の育成には極めて重要だと考えています」。

  

★あるある集

  • 「一般的な設計費は直接費の 7 ~ 15%程度」
  • Order of Magnitude: + 50% ~-30% Study: + 30% ~-30% Preliminary: + 30% ~-15% Definitive: + 15% ~-5% Detailed: + 5% ~-5%
  • 「ステンレスのような重要な建設資材は、需要が高い時と低い時では 2倍以上の値開き」がある。
  • 「冷凍機の消費電力は冷却塔の数十倍もあります」
  • 「機器費が直接費の 30%だとすれば」
  • 「“本仕様において意見の相違や問題、変更が生じた場合は話し合いを持って解決するものとする”」☜THE☆ありがち
  • 「いまだに口座管理が難しいという理由で購買を商社経由にしていたり、支払いが月末のみであったりする現状は甚だばかばかしいことですが、日本企業では常識的におこっていることです。まさに国際社会における天然記念物と呼んでも過言ではありません」
  • 「日本では、適当な仕様書をまとめて、あとは口頭や現場説明(現説)でその不十分なところを補う契約がほとんどです」
  • 「日本人ホワイトカラーの専門性はかなり低いと思います」。「既設設備の更新時には、末端の製造情報から設備本体に潜む工学理論を推測するような、おかしな設計方法になることもよくあります」。「エンジニアリングの世界においても、発展途上国の技術者の専門レベルが予想以上に高く、一方で、日本の技術者の専門性があまりぱっとしない理由に似ていますね」。「施主側の技術者が通常おこなっている詳細設計業務というのは、設計会社やメーカーの技術者が作った資料や図面をチェックしているだけなのです」☜ギクリ!(; ・`д・´) 「買い手側にエンジニアなんて必要ないのではないかと感じてしまうほどですが、そこは、それほど国内のサービスが充実している素晴らしい国なのだと理解しましょう」☜ぐぬぬ(; ・`д・´)
  • 「製造、研究、営業などエンジニアリングとは関係の薄い部署のプロジェクトメンバーは、建設工事に対する当事者意識が低いため、プロジェクト中盤にかかっても、変更や追加の要求を平気で出してきます」☜ありがち(; ・`д・´)

 

ガラパゴスおじさんに告ぐ

  • 「お気楽習慣」
  • 「頭の悪い人がいかに効率を下げて仕事をするかを研究した成果にも見えます」
  • 「ばかばかしいのを通り越して諦めの境地に達したことがあります」
  • 「40過ぎの男性にこれをやられると、真剣に日本の将来が心配になってしまいます」
  • 「猛者(悪い意味で)」
  • 「まさに黄昏の時代をまったりと堪能している状況です」
  • 「非論理的でばかげた標語」(ゼロ災害など)
  • 「残念ながら、神様で居続けてしまったため、お客様企業は本来持っているべき能力のほとんどを失ってしまっています」
  •  「天下のシャープさえ倒産させてしまう実力者が経済界のトップには沢山いるようです。コンプライアンス違反の東芝しかり、旭化成しかり、それら負の人材の豊富さには目を奪われます」

 

著者のHP。

www.atp-kobe.com