Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

ピスタチオ

ピスタチオ (ちくま文庫)

【概要】
著者(監督):梨木香歩

ペンネーム「棚」さんが世界の謎に導かれアフリカに飛ぶ。アフリカの陽光と呪術性がもやもやしている。ロードムービー感あり。片山海里、『アフリカの民話』、大雨、異常気象、愛犬の病気、洪水、三つの死、ダバ、呪術、ジンナジュ、アフリカの夜、憑霊、ルウェンゾリ、エルニーニョ現象、そしてピスタチオ。いや、謎が謎を呼ぶなあ!

日常性と非日常性の隣り合わせ感、「けれど、何だろう、この一致は」「もう動いているのだ、物語は」「棚はこの事態の加速具合が少々薄気味悪い」などに代表される先の展開への期待感、文体の重さのちょうどよさ・読みやすさ、描かれる概念の文学的抽象性、そういったあたりに特異性を感じた。事象や観念間の相互連関、物語に引き込まれた者がまた物語を紡ぐという連環。残る不思議な読後感。完全にはスッキリしていないが、何かしらの浄化がなされた模様だ。

 

【詳細】
<メモ>

棚は、自分の中で枷にはめられていたような何か、窒息しそうなほどがんじがらめになっていた、そのことを意識さえしていなかった何か、が、再び、徐々に解き放たれていくような感覚を味わっていた。
あっけらかん、と小さく呟いた。
この清々しさを言い表すにはこの言葉がぴったりだ、と目を閉じて思った。息を、ゆっくりと吐いて、またゆっくりと吸った。

 

片山海里の言っていたという、死者の「物語」こそがそれなのだろう、と思う。人の世の現実的な営みなど、誰がどう生きたか、ということを直感的に語ろうとするとき、たいして重要なことではない。物語が真実なのだ。死者の納得できる物語こそが、きっと。その人の人生に降った雨滴や吹いた風を受け止めるだけの、深い襞を持った物語が。──そういうものが、けれど可能なのだろうか。片山海里はきっと、作り手として関わりながら、自分もその物語を生きたのだろう。ストーリーに、自らの半身を滑り込ませるようにして。
同じ道でありながら、行きとは全く違った風景のように感じられる車窓を見ながら、棚はそう確信した。

 

ピスタチオのささやかな生は、とにかく無駄でなかったのだ。 遺失物係の母の直感では、ピスタチオは間違いなく「聖なる仕事」を成し遂げたのだった。
ピスタチオ。お前がこの世でなしたことは、人がこの世で出来ることの中で一番ましなことだったよ。お前の命は、正しく巡っていく。

 

teiyatottori.com