【概要】
著者(監督):佐藤雅美
地味。
淡々とした筆致で幕末の激動期を生きた一官僚の生涯を描く。名前が聖「膜」に見えた。
彼そのものがくっきり歴史に残っているわけではないようだが、それもまた人生。他者の人生が彼の人生を浮かび上がらせるのかも。歴史は群像劇であることを実感。
実質無収入のブラック養子から勘定奉行3000石まで大出世。仙石事件で大きく名を上げ、プチャーチンやハリス応対で徳川幕府にこの男ありと足跡を残した。
8割方は運ゲーの世界だが、有能さと実直な性格で腰かけ/事なかれ主義が蔓延していた幕末官界でのし上がった。もうちょっと人間味が感じられるとよかったかも(妾がいるのはちょっと意外だったが)。
【詳細】
<目次>
- 第一章 縁日の鉢植
- 第二章 忠告
- 第三章 十五万両の官位
- 第四章 左遷
- 第五章 魯西亜よりの使節
- 第六章 下田無情
- 第七章 辞表
- 第八章 隱居永螢居
- 第九章 最後の御役
- 付けたり
- あとがき
- 付記
<メモ>
- 江戸あるある:就職活動という名の挨拶回りで日が暮れる。禄高や官職名の本音と建前が全然違う。〇〇守や〇〇尉・〇〇介は割と好きに決めてよい。
- 老中ら高官の無茶振りに対応しているうちに、司法はもとよりまさかの外交交渉代表になってしまう。ジョークも飛ばせるウィットもある。あまり逆らわず己を出さないのは昔のサラリーマンにも通ずるものがある。
川路はまた官僚としての分を守り、矩を超えることがなかった。ましてや大言壮語など吐いたことがない。お偉方の信頼をいいことに、虎の威を借りるなどということもしたことがない。
官僚であれば上から無理難題を吹っかけられるなどというのはしょっちゅうある。川路はことにロシアとの交渉のとき、時の老中阿部伊勢守から、これでもかこれでもかとばかりに無理難題を吹っかけられた。それでも命ぜられるままに仕事をこなすのが官僚の責務。歯を食いしばりながら命にしたがった。
(中略)
川路は何事にも慎重で誰彼の誘いに気安く乗らなかった。また何かについて自己主張することもなかった。もちろん自分なりの主義主張はあったが、それを人に明かしたり、語ったりもしなかった。それがまた官僚としての当然の責務だと思っていた。
(中略)
あらためていうが、川路は官僚の鑑というのが、書きおえての率直な感想である。