【概要】
著者(監督):荻原浩
6編の短編を収める。掌の小説といった感じでよくまとまっている。四、五十頁の中に人生の悲喜劇が凝縮されている感じがよい。「海の見える街」「いつか来た道」「成人式」あたりが良かったかな(๑╹ω╹๑ )
【詳細】
<目次>
- 海の見える理髪店
- いつか来た道
- 遠くから来た手紙
- 空は今日もスカイ
- 時のない時計
- 成人式
<メモ>
〇海の見える理髪店
散髪、ひげ剃り、洗髪。床屋派のサム・ジーヴァとしては「子どもみたいになすがままにされるのが心地よかった」に同意。そう言った体験ができるお店だよね。ただ、店主の問わず語りは未経験。彼の話術に脱帽。返答時のかすれ声もあるある。
「ええ、私、いろんな方を見てきました。ずっと、鏡ごしに」からの、
「じつは私、人を殺めたことがあるんです」から急転回。
〇いつか来た道
個性派女優を演じ続けてきた人の舞台裏だ。見なかったことにしてあげよう。
でも、私の口からこぼれ出たのは、まったく違う言葉だった。絶対に言わないはずだった言葉。
「また来るから」
私は二人で電車を待った。
そして私は一人で乗った。
母の呪縛、そしてイマジナリーフレンドからの卒業。
〇遠くから来た手紙
土? 今日は水曜日だ。怒。
口語的な表現はもちろん、ダジャレもあるよ。
孝之の手紙は、ゴミ箱に入れて、ここへ来る途中の集積所に置いてきた。一通を除いて。
中学三年になったばかりの四月に、初めて孝之からもらった手紙だ。たった二行でこう書いてある。
君が好きです。
僕とつきあってください。
〇成人式
発想が斬新。
「替え玉成人式。お前が、鈴音のかわりに振袖を着るんだ」
夫婦の会話を取り戻すための遊び半分だった計画が、いつの間にか後戻りできないものになっていた。
私たちは、同じところを揺れてばかりの悲しみのメーターを、どこかで大きく振り切らねばならないのだ。
私と美絵子にも成人式が必要なのだ。