【概要】
著者(監督):塩田武士
グリコ森永事件が元ネタの模様。なかなかこんな事件があったとは信じがたいが…。2人の30代男性二人の物語が交互に進む。映像的な文体が印象的。あと関西弁が自然。「会ったこともないおっさんの改心などどうでもいい」などギャグっぽい描写もあり読みやすい。
【詳細】
<あらすじ>
<メモ>
「僕はこれ以上……、知ってもいいんでしょうか?」
【全国の おかあちゃん え】
【しょくよくの 秋や かしが うまいで かしやったら なんとゆうても 萬堂やで わしらが とくべつに あじ つけたった 青さんソーダの あじついて すこし からくちや】
- インタビューの臨場感と駆け引き、辛抱強く人探しする姿勢、少しずつ集まってくる情報、「腹の底がカッと熱くなった」瞬間の興奮…ミステリー・サスペンス要素つよし。「腹の底~」は「胃の腑が裏返る!!(『アンゴルモア』)」ってやつかな。
「大日新聞の阿久津と申します。突然お邪魔して大変申し訳ありません」
名刺を受け取ったとき、俊也の心臓は激しく波打っていた。ついに来るべきときが来たのだ。それはあまりに突然だった。
複雑な軌道を描いた事件の陳腐な結末に、阿久津はやりきれなくなった。再び奥歯を噛み締めたのか、達雄の頬の形が変わった。
「あなたには正義がない」
達雄の強い視線を阿久津は堂々と受け止めた。そして、無言のまま沈黙が続いた。
「もうお話しできることはありません」
勝手に奮い立つな(*'ω'*)
「もう何かから逃げる必要はないんじゃないですか?」
ずっと口を閉ざしていた俊也が優しく話し掛けた。目には表情があるというが、温かくも強い眼差しで聡一郎を見ていた。俊也は抱え続けていたであろう葛藤とケリをつけたのではないかと、阿久津は思った。
ビール缶を傾ける仕草をする阿久津を見て、俊也はいい男だなと思った。彼とは同い年で、同じ関西に生まれ育った。或いは阿久津ともどこかですれ違っていたかもしれない。「ギン萬事件」がなければ、この男と出会うこともなかった。しかし、一連の報道が落ち着けば、再びそれぞれが違う道を歩んでいくのだろう。
俊也は阿久津に握手を求めた。彼は快くそれに応じた。
「お元気で」
「俊也さんも」
30代男性の出会いと別れ。奇妙な邂逅。