Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

朝が来る

朝が来る (文春文庫)

【概要】
著者(監督):辻村深月

不妊治療の末、養子縁組により育ての親となった夫婦の元に怪しげな刺客が。
それは変わり果てた生みの親だった。不妊治療や養子縁組に関する理解が深まるのでは。養父母の愛情と実母の貧困逃亡生活が真に迫る。二人のお母ちゃんが再び邂逅するのは救いあるエンドでしたね。

 

【詳細】
<あらすじ>

asagakuru-movie.jp


<メモ>

  • 第一章 平穏と不穏

目の前は眩むような思いがしたが、今はただ、引いてはいけないという、その一念だった。

ここで流されて、朝斗を信じないことは。あの子を手放すことは一緒だ。親であることをやめるのと一緒だ。

 

母子の情愛。からの突然闇に落とした悪夢のような電話。

 

「子どもを、返してほしいんです」

 

  • 第二章 長いトンネル

「──もっと早く、やめたいって言えなくて、ごめん」

 

夫婦の葛藤と情愛、そして選択。

 

清和の手が、その頬に触れる。
「かわいいなぁ」と彼が言った。
その瞬間、思った。
恋に落ちるように、と聞いた、あの表現とは少し違う。けれど、佐都子ははっきりと思った。
朝が来た、と。
終わりがない、長く暗い夜の底を歩いているような、光のないトンネルを抜けて。永遠に明けないと思っていた夜が、今、明けた。
この子はうちに、朝を運んできた。  

 

「ごめんなさい。ありがとうございます。この子をよろしくお願いします」
これが伝えたくて、自分たちに会いたいと希望したのだろう。しかし、言葉はそれ以上増えてこない。ただただ思いだけが先走って、同じ言葉が、何度となくくり返される。
ごめんなさい、ありがとうございます、この子をよろしくお願いします。

 

  • 第三章 発表会の帰り道

逃げることも、育てることも、この子の誕生日を祝うこともない代わりに、覚えていよう。この子と今日、一緒に、すごくきれいな空を見たことを。一緒に見られた、二人で一人の、誰にも邪魔されずにいられた、この時間のことを。

ベビーバトンの日々、転落と逃亡の日々。

 

  • 第四章 朝が来る

彼らが話しているのは現実のひかりではない、とはっきり思うのに、それでも、そのひかりの方がまぎれもなくひかりだった。
あの子を産み、迷い、葛藤しながら、それでも、泣いて泣いて、この二人にあの子を託したひかり。
あれが私だ、と思う。
"彼女"がこの家で生き続けていることを、奇跡のように感じる。
昔、ひかりのことを「失敗した」と言った自分の両親は、その後、ひかりの後ろに実在しない「失敗しなかった」ひかりを見続け、愛していた。その時は反発と嫌悪感しか覚えなかったのに、今、この人たちの口にする"広島のお母ちゃん"は確かにいるのだと思える。

 

このまま、雷に、打たれてしまいたい。

 

どん、と強い重みを背中に感じたのは、その時だった。
一瞬、何事かと思う。さすがに驚いて振り返ったひかりの肩に覆いかぶさるようにして、誰かがしがみついている。
ひかりを、逃すまいとするかのように。
走ってきたのかもしれない。荒く息を吐き出しながら、彼女が言った。
「やっと、見つけた」
え、と声にならない声を出して、自分の後ろから、ひかりを抱きしめるように体を預ける、その人の顔を見た。

 

「ごめんなさいね。わかってあげられなくて。ごめんなさいね、追い返したりして。ごめんなさい、わからなくて」

 

金色に輝く、その雨の中で。
朝斗の澄んだ瞳が、二人の母親をじっと見つめ続けていた。

 

救いのあるENDでよかったわ。さすが辻村深月