Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

向日葵の咲かない夏

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

【概要】
著者(監督):道尾秀介

道尾秀介。猟奇的な連続殺人(?)事件の謎を追う。不可解な設定が気になりつつもページをめくらせる。
大人びた兄妹の夏の日の冒険ミステリかと思いきや、だんだん雲行きが怪しくなっていく。ミスリード耐性ゼロの自分にはクリティカルヒット。現実と幻想の境目がゆらぐ。
なんと奇妙奇天烈でサイコパス揃いの町かと呆れてたが、主人公のそれは圧倒的だった。

 

【詳細】
<メモ>

  • イマジナリーフレンズを動員し、総ミスリード体制で読者の脳髄に致命的なダメージを与える。代弁させ、対話し、韜晦する。ミカ:トカゲ、トコお婆さん:猫、S君:蜘蛛、泰造じいさん:カマドウマ…。
  • 妄想と猟奇的な事件と少年愛岩村ティーチャー、泰造じいさん、そしてミチオ(道尾?)…。終盤に怒涛の饒舌謎解き(カタストロフ)タイムが始まるよ。どこまでが現実でどこまでが妄想なのか分からなくなる。何にせよ強い印象を残す作品であった。

 

すべての死体には、二つの共通した特徴があった。
一つは、後足の関節──人間でいえば膝の部分の関節が、すべて、逆方向に曲げられているということ。そしてもう一つは、死んだ犬や猫の口に、白い石鹸が押し込まれているということ。

 

「何してるの──?」
僕は訊いた。S君は答えない。紫色の唇は、ぴくりとも動かない。首が、人間の姿とは思えないほど長く伸びている。
心臓が、高いところから落とされたように、どん、と大きく鳴った。短く息を吸い込むと、歯のあいだで空気が鋭く音を立てた。S君の両足は、床についていない。
「あ──あ……」
半ズボンから伸びたS君の腿の内側を、泥のようなものが伝った。それは色黒のS君の、細い足を伝い、やがて裸足の爪先からぽたりと落下した。見ると、ちょうど畳と敷居のあいだに、複雑な色をした、小さな水溜りができていた。
呼吸が、一回ごとに速く、浅くなっていった。息を吐くたび、咽喉の奥から、あ、あ、あ、という震えた声が洩れ出た。油蝉の甲高い声に、頭を押さえつけられたように、僕はその場から動くことができなかった。

 

「なかったんだよ」
僕は首をひねり、岩村先生を見返した。
「なかった……」
「そう。先生、お巡りさんといっしょにSの家に駆けつけたんだけどな──Sの死体な
んて、なかったんだ。どこにも」

 

S君まさかの再登場。

「僕、蜘蛛になったんだ」

 ☝!!!!?

 

岩村少年愛の秘密、ミチオの名札消失、ミカへの欲情、惨殺されるトコ婆さん…謎が謎を呼ぶミスリードの嵐。とにかくページをめくれ!

 

「そう。あまりにこんがらがってきちゃったから、このへんでお終いにしようと思って。
実際、ここまで複雑になるなんて、思ってなかったんだよ。もう自分で、何がなんだか、わけがわからなくなってきちゃってさ」
言いながら、ミチオは手にした石鹸をズボンのポケットに押し込む。
「でもね、それを奇麗に終わらせる方法が一つだけあることに、気がついたんだ。ほんとは、ちょっと迷ってたんだけど──やっぱりやってみることにした。

 

生まれ変わる者たち。自殺教唆への呵責。

「僕だけじゃない。誰だって、自分の物語の中にいるじゃないか。自分だけの物語の中に。その物語はいつだって、何かを隠そうとしてるし、何かを忘れようとしてるじゃないか」

 

ラスト。

太陽は僕たちの真後ろに回り、アスファルトには長い影が一つ、伸びていた。

長い影が「一つ」だけ…。妄想世界の住人たちはすべて姿を消した。


「解説」では読者の疑問ポイントを列挙してあり、読者は安堵することであろう。