【概要】
著者(監督):原田マハ
半分架空の過去パートはまあまあ。一方現代では、主人公が国連やバスク地方のテロリストの陰謀やゴタゴタに巻き込まれるなど、展開が劇的すぎて『楽園のカンヴァス』ほどののめりこみ感はなかったかな。
資産家ふたりが便利キャラすぎて主人公の活躍を感じにくいのと、ゲルニカを通じて「テロリズムに屈しない」ことを主張することがイラク戦争肯定にならないか? という疑念とが、個人的には不完全燃焼感を残した。
【詳細】
<あらすじ>
ピカソの研究者を自任する私が、いま、やるべきピカソの展覧会は何かと問われたら──。
ピカソが、アートの力で、いかに不条理な武力行使と闘ったかということを検証する。それ以外にはない。ピカソは、どんなものでも創り得た。美の新しい基準さえも作り出した。天才の名をほしいままにし、たとえ創造主、つまり神のごとく振る舞ったとしても、人々はそ
れを容認したことだろう。なぜなら、彼こそは、純然たる「創造主」だったのだから。そのピカソが、殺し合いをやめない人類に対して突き付けた渾身の一作――<ゲルニカ>。
もっとも美しく、もっとも賢い、神の被造物であるはずの人類が繰り返してきた、もっとも醜い行為。ピカソは、<ゲルニカ>を創り出すことによって警鐘を鳴らした。人間たちよ、己が為したかくも醜い行為を見よ、決して目を逸らすな、と。
『報告いたします。本日、国連安全保障理事会の決議の結果、イラクへの武力行使はやむなしとして──』
瑤子は、目を見張った。
パワー国務長官の背後に―<ゲルニカ>が、ない。
そこには、ゲルニカ〉ではなく、暗幕が下がっていた。
悲劇の舞台を覆い隠す緞帳のような、暗幕が。
ピカソの体と手は、大海のようなカンヴァスの上をすさまじい勢いで泳いだ。描き、塗り、消し、貼り付け、剥がし、盛り上げ、潰し、広げ、散らかし、収束させていく。その展開は一見めちゃくちゃなようでありながら、画面には常に秩序が保たれていた。見事な均衡があり、厳しいルールがあった。ピカソは、自らが生み出している絵の中の秩序、均衡、ルールに、どこまでも忠実だった。
国連も、ホワイトハウスも、いかなる国家権力も、芸術を暗幕の下に沈めることはできないと証明するのよ。
ええ、そうですとも。アートの真の力を見せつけるのです。
いいわね、ヨーコ。奪うのよ。 ──必ず。
<メモ>