【概要】
著者(監督):湯浅弘章
つらい。エモい。苦しい。叫びたい。
志乃の複雑すぎる内面、加代の大海の如き心、菊地のさらけ出す内面。あぶれ者三人の青春。安易な解決を期待していると裏切られる
二人で夕焼けの波止場を歩いても、砂浜を駆けても、路上ライブで心を通わせても、苦しさつらさ恥ずかしさが自分を追いかけてくる。
自分のコンプレックスから逃げても自意識から遁れることはできない。優しい言葉をかけられても、一緒のときを過ごしても、内面を曝け出されても、自立するのは自分の意志で。
志乃の吃音描写が真に迫っており、観ていてもどかしくいたたまれない。でも見捨てられない。うっかり拳に力が入り「がんばれっ!」と声が出そうになった。ライブ後志乃の独白、流れる涙と鼻水、エピローグで見せた笑顔。カッコ悪くてもズタボロに傷ついても、一歩踏み出した彼女を応援したい。
【詳細】
<あらすじ>
<印象>
- 吃音描写が物凄い。凄いというかもう、凄惨。
- 冒頭の自己紹介からもう見ていられない。いたたまれない。観てるこっちが申し訳なくなる。思わず力が入り「がんばれっ!」と叫びたくなる。
- うつむきかげんの暗黒学生生活。ひとり校舎の片隅で会話練習、休み時間も居場所がない。全部吃音のせいなのか。
- 加代ちゃんとあぶれ者同士接近する。筆談で志乃ちゃんが選んだ言葉はまさかの「おちんちん」。おもしろいじゃん。
- 音痴だったかよちゃん。カラオケ前で勇気を出して救出。ここは頑張った。「あんたは言い訳があっていいよね」と言われ、西日で洟を垂れてとりあえずの「ごめん」。抱える悩みは全然違うが、二人の接近が加速する。
- 加代ちゃんの自宅お呼ばれして弾き語り依頼するも笑ってしまう志乃ちゃん。失点だったが雨降って地固まるで、じゃあ志乃ちゃん歌えよとなり、野外弾丸ライブを敢行するまでに仲が深まり、世界に対峙する勇気を得る。
- 港の夕べを歩く二人、橋での「あのすば」「青空」。この子と一緒なら…と、登場人物の二人も視聴者も思ったに違いない。この夏休みの想い出がこの物語のピークとなる…。
- 調子コキ男の菊地君にライヴを目撃され、傷つく志乃ちゃん。加代ちゃんが彼をしばくも、結局あぶれ者同士仲間に入れてやる。かよちゃん心広いかよ。
- 原作者からしてキラキラ青春ドラマで終わるわけがない。理由不明の遁走を見せる志乃ちゃん。難しすぎる内面は誰も窺い知ることはできない。彼女の繊細な内面に3人体制にはさすがに無理があったか。
- 3者それぞれにコンプレックスがある。相手の内面を知るためには自分の内面を曝け出すことが必要なのかもしれない。
- 二人で出場するはずだったが、結局志乃ちゃん現れぬまま文化祭を迎える。加代ちゃんの勇姿と言葉に励起され、あらん限りの言葉を絞り出す志乃ちゃん。言いたいことは全部言えたかな? その後のエピローグでも三者の関係が元通りになった感じはない。安易に苦悩が解決しない一風変わったエンド。コンプレックスを笑っていたのは自分であり、コンプレックスに逃げずに向き合うことが心の自立につながるのかもしれない。
- テレビ、コンポ、アラームなどから窺える、ちょっと古めの時代設定がよい。
- 清掃じいちゃんが二人のライヴを見ているカットに癒される。この映画の休憩ポイント。
<出てきた曲>