Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

インカ皇統記

インカ皇統記〈1〉 (岩波文庫)

【概要】
著者(監督):インカ・ガルシラーソ・デ・ラ・ベガ 訳:牛島信明

(1)「征服した側とされた側の、ほとんど最良の血が流れている」著者がインカ帝国の歴史・社会・風物をしゃべくり倒す。400年前といえども黄金の輝きを放っている。そう、インカ帝国を飾った黄金のように。

基本的にはキリスト教的世界観で新世界の事物を語るが、認めるところはちゃんと認めており著者の知的な姿勢が窺える。そして行間から在りし日のインカ帝国への郷愁と憧憬を拭い去れないのが伝わって来る。


【詳細】

冷静な知性と愛情をもって、博物誌的な熱心さでインカの人々の歴史・神話・地理・文化・言語・科学などを書き残した。

「優劣を問うような比較はいずれ厭わしいものだ」「非人間的な非難は、確たる証拠なしにはなされるべきでない」といった良識ある視点、ケチュア語の深い理解、読者を意識した文体が興味深く、著者の人間性を今に伝える。

各論は『黄金の国の光と陰』とほぼ一致するので、全四巻読む気力がない人はそっちの方がいいかも知れない。

 

皆が集まった時、決まって話題になったのは、彼らの王の起源、歴代の王の威光、帝国の広大さ、王たちの偉業と征服、平和時ならびに戦時に彼らが行なった政治、そして臣民の利益と安寧のために制定したもろもろの法令についてであった。要するに、帝国の繁栄期に生起したことで、彼らが口の端にかけないことはなかったのである。

 

当時ほんの子供だった私は、大人たちが集まっている所に、頻繁に出入りし、一般に子供たちが童話を聞いて楽しむように、彼らの話を聞くことに大きな喜びを覚えていた。

 

私は、母親の乳と一緒に吸収した話、そしてその後、私の親戚や友人たちに頼んで教えてもらった話だけを淡々と語るつもりであり、その際、彼らに対する愛情ゆえに真実から目をそむけ、称賛に価する点だけを誇張して、欠点を糊塗したり切り捨てたりするようなことはしないと約束する。

 

 

・或るインカの嘆き

「スペイン人が、つまり君たちの父親が、われわれに鋏と鏡と櫛をもたらす以外何もしなかったなら、われわれは帝国のありとあらゆる金銀を彼らに与えたであろうに」

 

・ホセ・デ・アコスタ神父

「しかしながら、われわれはこうしたことに理解が及ばず、彼らの言うところを聞こうともしなければ知ろうともせずに、刀を振りかざしてこの国に入りこんで来たので、インディオの事物に称賛に価するものがあるなどとは思いもよらず、彼らのことを山で捕えた獲物、われわれが思いのままに頤使できる動物のように考えがちなのである。ところが、非常に知的好奇心の強い、良識豊かな人びとで、彼らの秘密、そして古来の生活様式や政治形態について深く知るようになった人びとは、まったく異なる見方をし、彼らがきわめて理にかなった秩序を持っていたことに、驚嘆している」