Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている

著者:佐々涼子
評価:B

【概要】
津波で被災した日本製紙石巻工場が復活するまでを描いたノンフィクション。震災直後の凄惨な状態から半年で8号、1年でN6再稼働は驚異的。市井の人々の願いや思いの集合体が、町や組織や歴史なのであると感じた。なお、復旧よりも震災直後の描写の方が印象的だった。これだけの経験をしたら震災前後で価値観が大きく変わるだろうなと思った(私は揺れすら感じられなかったが)。
現場と営業、リーダーの務め、出版業界の行方などのサブテーマも見逃せない。

【詳細】
<震災直後>
黒い海が不気味な壁のようになって、家を海側から順番に倒していく。電柱が根元から折れ、電線がスパークしてバチバチっと音を上げた。バキバキッ、メリメリメリメリと何かがちぎれる音や、金属がこすれる音、車のクラクション、助けを求める叫び声、プロパンガスのシューッと抜ける音が混ざりあう。続いてボンッ、ボンッと小さな爆発音があちこちから聞こえた。

「僕の感情は麻痺してしまっていて、まったく恐怖も悲しみも感じませんでした。逆に、おかしくもないのに、笑ってるんですよ。極限状態になると、人って笑うんだなと思いました」

「とにかくにおいがすごかった。震災のにおいっていうんですか。木やビニールや人が燃えている。当日と翌日までに50人は助けました。そして、その倍の人を見殺しにした。助けられなかったんです。そのことは一生忘れられないでしょう」

<リーダー論>
「私がこうやって目標を設定してやらないと、工場がどこに向かって走っていっていいか、わからないでしょう?」
「工場に行きます。別に何してやれるわけじゃない。ただ、責任は俺が持ってやるから大丈夫だと、安心してもらうためにいるだけです」
「現場の話を物わかりよく聞いてたら、三年あっても復興工事なんて終わらない」

工場復活の話の合間に、社会人野球チームや店主の話を挟みつつ、スラスラ読ませる。
紙の原料パルプの種類(古紙、化学、機械)、紙の本の良さ、紙の選び方や出版業界の雲行きなども興味深い。

「もうあんなのは御免です。でもね、たったひとつだけ、感謝していることがあるんですよ。それは、当たり前に紙を作ることが、こんなにうれしいものだったのかと教えてくれたことです」

「娘とせがれに人生最後の一冊を手渡すときは、紙の本でありたい。メモリースティックじゃさまにならないもんな」