評価:B+
【概要】
近年の遺伝学の知見を紹介しながら、遺伝と環境、男と女にまつわる残酷な真実を暴いていく。「ま、残念ながらこういうことなんだけど受け入れて、こうしてかないとね」と提案しているのは意外と建設的。
【詳細】
近年明らかになった遺伝学(+その他)の研究データをひっさげ、「遺伝」と「環境(共有環境+非共有環境)が、知能、身体、性格、病理などの諸項目に与える影響度を教えてくれる。
文化人類学、動物行動学、犯罪心理学はわかるが、
進化心理学、神経犯罪学、行動遺伝学は学問分野がナウすぎてわからない。
アシュケナージ系ユダヤ人や東アジア人の知能と憂鬱、ガガンボモドキの変態器官、コロンボの「発見」などのこぼれ話は興味深かった。
まあ大体、遺伝で決まるね。
行動遺伝学の双生児研究などによって、「知能が環境のみによって決まる」という仮説は完膚なきまでに否定されてしまった。言語性知能は家庭環境の影響を強く受けるものの、それを除けば、一般知能の8割、論理的推論能力の7割が遺伝で説明できるなど、認知能力における遺伝の影響はきわめて大きいのだ。でも、
自然科学の研究成果とは無関係に、「(負の)知能は遺伝しない」というイデオロギー(お話)が必要とされるのだ。だから、
教育関係者は「知能の遺伝率はきわめて高い」という行動遺伝学の知見を無視し、説明責任を放棄したまま、「教育にもっと税を投入すればみんなが幸福になれる」と主張して巨額の公費を手にしている。
あとは遺伝プログラムのお話。遺伝子は利己的だけど合理的なんだね。
「男はモノを相手にした仕事を、女はひととかかわる仕事を好む」というギブツの大規模な社会実験の結果は、男女の志向のちがいが(男性中心主義的な)環境ではなく、脳の遺伝的・生理的な差から生じることを示している。男らしさや女らしさは進化が生みだした脳のプログラムなのだ。
フレンズによって得意なこと違う。
…という具合に、遺伝の影響の大きさや進化プログラムの傾向を突きつけてくるのだが、「ま、残念ながらこういうことなんだけど受け入れて、こうしてかないとね」と提案しているのは意外と建設的。たとえば以下。
環境で発病が決まるなら、親族にがんが多い、いわゆるがん家系だとしても、食事や生活習慣に配慮することで予防が可能だ。(中略)行動遺伝学は、私たちの生活の改善に大きな可能性を秘めている。
精神病と遺伝との関係が社会に周知されていれば、父母やきょうだい、友人たちはそのリスクを知ったうえで、2人を援助したり、助言したりできるかもしれない。
つまり、
私達の認知=知性が進化のちからによってどのように偏向しているのかをちゃんと知っておく必要がある。現代の進化論が突きつける不愉快な真実は、歪んだ理性を暴走させないための安全装置なのだ。