Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

蜜蜂と遠雷


【概要】

著者:恩田陸
若き才能たちがコンクールでお互いを高め合い、音楽、人生、生命など、さまざまな方向に思索を展開していく。
物語の一人称が流れるように変化していき、コンテスタントだけでなく、審査員、観客それぞれの視点を楽しめる群像劇となっている。
文字で表現された演奏は、汲めども尽きぬ無限の深みを湛えている。ようつべで聴きながら読むことを薦める。

【詳細】
登場人物たちが音楽を通じ、気付くべきところに気付き、行くべきところに行き、戻るべきところに戻る物語。
上下2段組×500頁という萎えぽよフィンフィン丸な単行本だが、かなり平易で読みやすいので問題ない。なお、『蜂蜜と遠雷』ではない。
膨大な曲目の事前準備、演奏時の高揚、結果発表のドキドキなどの臨場感を味わうべく、ようつべ等で該曲を聴きながら読むことを薦める。

風間塵が爆発させているのは、音楽教育ではない。彼自身の才能が起爆剤となって、他の才能を秘めた天才たちを弾けさせているのだ。型にはまった演奏や、ただ技巧的にうまいだけの演奏ではなく、真に個性的な才能を、風間塵の演奏を触媒として、開花させることなのだ。それこそが、ホフマンの仕掛けた爆弾。
その結果が、今目の当たりにしている天才の演奏なのだ。

 

みんなで歓喜に浸り、天の祝福を受けている。
誰もがあまねく、音楽という「ギフト」を受け取っているのだ。


トリックスターの野生天才・塵(ジン)に源流を発する才能インスパイア合戦もとい三角関係が勃発する。
基本的には主人公はドロップアウトガール・亜夜だが、王道天才・マサル、庶民代表・明石、指導者、審査員、観客、友人・奏、師匠、カメラマン・雅美、舞台袖、その他多数の人物が入り乱れる。
物語の一人称が流れるように変化していき、コンテスタントだけでなく、審査員、観客それぞれの視点を楽しめる群像劇となっている。

「まさに音楽を奏でているのは指ではなく心なのだ」
の言葉にみられるように、以下のような心象イマージュの奔流に脳内洗浄される。

どこまでも続く地平線。駆けていく子供たち。遠くで手を広げて待っている誰か。生きとし生けるものが歩いていく大地。
胸の奥に青い草原がさあっと広がっていくような気がした。草の匂いを感じる。吹き渡る風に。夕餉の懐かしい匂い。
何ともいえぬ安心感。安堵感。何も心配する必要のない幼い頃に戻ったみたいに。

ステージに立つ者、見守る者。
羨望、憧憬、嫉妬、嫌悪、共感、感動。彼らは今日も、さまざまな感情を抱いてホールに向かう。
思いはときに宇宙そらに向かい、ときに内面に向かう。
才能、人生、音楽、世界、生命。老いも若きも、コンクール中にさまざまな気付きがある。思索を広げ、記憶を辿る。
「なぜ東洋人が西洋音楽をやるのか」「なぜ音楽をやるのか」
「なぜ続けるのか」「どう弾くのか」「どう音楽と関わるのか」
など、テーマらしきものは多岐にわたるが、「天才と凡才との懸隔」はそのうちでも大きなものの一つだ。

なんというリアル。なんという充実。普段の生活が、どこか遠い出来事のよう。ステージの上のあの感じ、光に照らされたグランドピアノの佇まい、そこに歩いていく感じ、心地好く集中できるあの場所、観客の視線を集めて弾きだす瞬間、親密な、同時に崇高なものが濃縮された時間。そしてあの満足感、興奮に溢れた喝采。観客と何かを共有し、やり遂げた感じ。


たまに社会の閉塞感や人間の澱のようなものをチラッと見せたりもするが、
基本的にはこの世界はキレイで爽やか。少し甘ったるいくらいか。
音楽を媒介してテレパシー会話(withoutマー君)したり青春(上澄み)したりは、もはや定番。
君嘘から喪失感を抜いて、年齢層を5歳ほど上げた感じか。

 

こうして四人で芳ケ江の浜辺を、この年のこの日のこの時間に、冷たい風に吹かれて歩いていたこの瞬間を忘れないだろう。胸に焼きついたこの瞬間を、四人でここを歩いたこの感じ、他の三人のシルエットを痛いような気持ちで見つめていたこの時を、ずっと覚えているだろう。



ショパンのバラードには、幼い頃の感情、わらべうたを歌う時に感じる、遺伝子に刷り込まれたさみしさが含まれているような気がする。

 

淡々と語られる無数の人生。
観客は、舞台の上の彼女を見つめ、彼女の演奏を聴きながら、自分を見ている。自分のこれまでの人生、これまでの軌跡が、舞台の上に映し出されているのを目撃しているのだ。

 

金管が、木管が、弦楽器が、ピアノが、風間塵が、亜夜が、観客が、ホールが、芳ヶ江が、鳴っている。
世界が、世界が、世界が、鳴っている。興奮に満ちた音楽という歓声で。


こんな感じに基本的にはぴゅあぴゅあな表現が多い。
この手の作品、話が進むにつれヴォキャブラリィが枯渇していきそうな気がするが、大丈夫。
盛り上げのパターンが多岐にわたっており、あの手この手で見せ場をつくる。
お腹いっぱいになったところに違う味をぶち込んでくるあたりはさすが。

あえて繰り返すが、君嘘はいいぞ。

【セリフ】
お腹いっぱいになってきたところで、登場人物たちのセリフを紹介していこう。

<明石>

音楽っていいな。
明石はふと素直にそう思った。
真の世界言語だ。

 

凄い。
明石は素直に思った。
膨大な歳月が、情熱が奇跡的に組み合わさったものを今自分は目にしているのだ。
これだけ大勢の人たちが、生涯をかけるだけのものがあると信じて、この音を生み出しているのだ。


<塵>

世界中にたった一人しかいなくても、野原にピアノが転がっていたら、いつまでも弾き続けていたいくらい好きだなあ。

 

いつも聞いていたあの羽音は、世界を祝福する音なのだ。せっせと命の輝きを集める音。まさに命の営みそのものの音。


<亜夜>

ああ、本当にこの世界は音楽に満ちている。ドアの開閉音、ホールの窓を叩く風、人々の足音、会話。言葉のひとつひとつが感情という曲想と共に発せられ、この世を満たす。

 

お礼を言うわ。この世界と音楽に。


すごいよ!

苦労は全て忘れよう。
聴衆と自分とに向けて、この素晴らしいドラマを届けよう。

 

そう、今僕は、世界に点在している音楽の欠片を集め、僕の身体の中で結晶化させているのだ。僕の中に音楽が満ちて、僕というフィルターを通して、これから僕の音楽として再び世界に出ていくのだ。僕が音楽を生み出しているのではない。僕という存在が媒介して、既にそこにある音楽を世界に返すだけなのだ――


【おまけ】
作中の登場曲をようつべから拾ってきた。
うん、まああれだ。多いんだ。ごめん。
出て来た順で大体カバーできてると思うけど、たぶん洩れてるのでそこんとこシクヨロ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 <第二次予選>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<第三次予選>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショパン バラード1番   ⇒あえて繰り返すが、君嘘はいいぞ。

 

 

 

 

<本選>