Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

八甲田山死の彷徨

著者:新田次郎
評価:B+

【概要】
新田次郎という好適の書き手を得て、200名もの遭難者を出した悪夢の山岳事故が詳らかにされる。指揮系統の混乱、油断と焦燥、準備不足が組織の潰滅を招くという教訓、そして明治の暗い影を掴み取れ。

【詳細】
第31聯隊と第5聯隊が八甲田山経由ルートにて雪中行軍競争を実施する。
結果、第31聯隊はほとんど落伍者を出さずに踏破。一方、第5聯隊は凍死体を量産した。

新田次郎という好適の書き手を得て、200名もの遭難者を出した悪夢の山岳事故が詳らかにされる。
指揮系統の混乱、油断と焦燥、準備不足が組織の潰滅を招くという教訓、そして明治の暗い影を掴み取れ(民草と軍人の隔たり、階級の隔たり、命の軽さ)。

<Freezing cold>
寒暖計は零下20度を示していた。
向い風のために進行速度が押えられ、舞い狂う雪のために前方に何があるやら分らなかった。

<雪地獄>
「死の通行税」を支払わされた第5聯隊の兵士たちは「氷の被膜につつまれて、氷の地蔵になっ」ていく。
彼等は歩きながら眠っていて、突然枯木のように雪の中に倒れた。二度と起き上がれなかった。落伍者ではなく、疲労凍死であった。前を歩いて行く兵がばったり倒れると、その次を歩いている兵がそれに誘われたように倒れた。
突然奇声を発して、雪の中をあばれ廻った末に雪の中に頭を突込んで、そのまま永遠の眠りに入る者もいた。
雪の中に坐りこんで、げらげら笑い出す者もいた。なんともわけのわからぬ奇声を発しながら、軍服を脱いで裸になる者もいた。

<まぼろし>
日が暮れて来たのに、夜が明けて行くように感じたり、夜になると、しばしば救助隊の振りかざす小型提灯の灯を見た。救助隊の呼ぶ声が聞えたり、笑う声がしたりした。すべて幻視と幻聴であった。歩いてるか突立っているか自分でよく分らなかった。

<次郎総括>
装備不良、指揮系統の混乱、未曾有の悪天候などの原因は必ずしも真相を衝くものではなく、やはり、日露戦争を前にして軍首脳部が考え出した、寒冷地における人間実験がこの悲惨事を生み出した最大の原因であった。

とはいえ第5聯隊は潰滅すべくしてした感はある。運ゲー要素はあれど。
なかでもヤマショーの罪は重い。
無能が上に立つと組織は潰滅する。「前進!」には呆れ返った。
 精神だけであの寒さに勝てるものですか、胸まで埋もれてしまうようなあの深雪に勝てるものですか、どうもわが軍の首脳部には、物象を軽視して、精神主義だけに片寄ろうとする傾向がある。

将校たるもの、その人間が信用できるかどうか見極めるだけの能力がなければならない。弥兵衛も相馬村長も信用置ける人間だと思ったからまかせたのだ。他人を信ずることのできない者は自分自身をも見失ってしまうものだ。

これらは、徳島大尉に語らせた新田のリーダー論と見た。