著者:手塚治虫
評価:B+
【評】
山賊・我王と仏師・茜丸が、あをによし奈良を舞台に人間ドラマを繰り広げる。
鎮護国家に向け驀進する古代日本にあって、政治の道具に堕していく仏道。
鑿と槌で彫り上げていく仏像は人々の心に何をもたらすのか。
雨だれで石を彫刻したり、速魚がいつかの天道虫だったりと仏教的テーマが底流しているが、
なかでも圧倒的だったのは、
①茜丸が「胡蝶の夢」で鳳凰に相まみえる場面。
②我王が思い描いた輪廻の輪、転生の鎖。
③大悟したときの虫魚禽獣タワー、そして鳳凰。
終生のライバルはいずれも鳳凰を見た。
速魚や良弁、ブチ、時の権力者、そして永遠のいのち・鳳凰などの盛り上げ役との交わりで、
次第に逆転していく二人の心。ひたむきさは今や移った。
最後の鬼瓦バトルで見せた茜丸の、怒りを捨てられない弱さ。
人の心の弱さが、残念だった。
オサム一流の表現としては、
「ああああああ」のペイズリー我王、
転生リレーや虫魚禽獣タワーといった輪廻思想や悉皆成仏などがある。
もちろん現代語(マスコット、プロデューサー)やヒョウタンツギが参戦するのもオサム仕様。