訳者:中村元
【評】
「仏教の実践を教えた、恐らく最も著名でまた影響力ある詩集である」とのこと。漢訳版では『法句経』ともいう。
釈尊のストイックかつ比喩を駆使した寸言が魂に触れる。
たとえためになることを数多く語るにしても、それを実行しないならば、その人は怠っているのである。
思慮ある人は、奮い立ち、努めはげみ、自制・克己によって、激流もおし流すことのできない島をつくれ。
わざに巧みな人が花を摘むように、学びにつとめる人々こそ善く説かれた真理のことばを摘み集めるであろう。
うず高い花を集めて多くの華鬘をつくるように、人として生れまた死ぬべきであるならば、多くの善いことをなせ。
戦場において百万人に勝つよりも、唯だ一つの自己に克つ者こそ、実に最上の勝利者である。
学ぶことのない人は、牛のように老いる。かれの肉は増えるが、かれの智慧は増えない。
悩める人々のあいだにあって、悩み無く、大いに楽しく生きよう。悩める人々のあいだにあって、悩み無く暮そう。
よく気をつけていて、明らかな智慧あり、学ぶところ多く、忍耐づよく、戒めをまもる、そのような立派な聖者・善き人、英知ある人に親しめよ。――月がもろもろの星の進む道にしたがうように。
真実を語れ。怒るな。請われたならば、乏しい中から与えよ。これら三つの事によって死後には天の神々のもとに至り得るであろう。
戦場の象が、射られた矢にあたっても堪え忍ぶように、われは人のそしりを忍ぼう。
善をなすのを急げ。悪から心を退けよ。善をなすのにのろのろしたら、心は悪事をたのしむ。
ひとは「われはこれこれのものである」と考えるそのとおりのものとなる。
<いつの時代も>
沈黙している者も非難され、多く語る者も非難され、すこしく語る者も非難される。世に非難されない者はいない。
恥を知らず、烏のように厚かましく、図々しく、ひとを責め、大胆で、心の汚れた者は、生活し易い。
やはり仏教、ただのニヒリズムではない。
仏の教えの原点・原典に立ち返ってみよう。
ただし、愛執、殺生その他はNG。
以下、インド感あふれる比喩シリーズをお送りして〆たい。
- 車をひく牛の足跡に車輪がついて行くように
- 影がそのからだから離れないように
- 牛飼いが他人の牛を数えているように
- 疾くはしる馬が、足のろの馬を抜いてかけるように
- 狡猾な賭博師が不利な骰の目をかくしてしまうように
- 乳を吸う子牛が母牛を恋い慕うように
- 雪を頂く高山のように
- 水の滴が蓮華から落ちるように
- 商人が良い馬を調教するように
- 熟した果実がいつも落ちるおそれがあるように
- 山から発する川の水が流れ去って還らないように
- 蛇が旧い皮を脱皮して捨て去るように
- 亀が諸の肢体を自分の甲のなかにひっこめるように