Javaさんのお部屋・改

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

原爆詩集

著者:峠三吉
評価:B+

【評】
「ちちをかえせ/ははをかえせ」
の伝説の「序」でおなじみ。
この詩集は、
「人間としてふとしたとき自他への思いやりとしてさしのべられざるを得ぬ優しい手の中へのせい一ぱいの贈り物である。どうかこの心を受取って頂きたい」。

「影のないひろしま」、
「人くさくて/人の絶えた/何里四方かの/死寂。」、
ひろしまは/もう見えない。」
「にんげんから遠いものにされはててしまっ」た者たちの怒りと希いに捧ぐ。

「八月六日」
やがてボロ切れのような皮膚を垂れた
両手を胸に
くずれた脳漿を踏み

兵器廠の床の糞尿のうえに
のがれ横たわった女学生らの
太鼓腹の、片眼つぶれの、半身あかむけの、丸坊主

「死」
タイコの腹をふくらせ
唇までめくれた
あかい肉塊たち
足首をつかむ
ずるりと剥けた手
ころがった眼で叫ぶ
白く煮えた首
手で踏んだ毛髪、脳漿

「炎の季節」 
明滅する太陽のもと、
焔の舌が這い廻り、
にんげんの
めくられた皮膚をなめ
旋風にはためく
黒い驟雨が
同族を呼ぶ唇を塞ぐ

「ちいさい子」
そのお腹におまえをおいたまま
南の島で砲弾に八つ裂かれた父さんが
別れの涙をぬりこめたやさしいからだが
火傷と膿と斑点にふくれあがり
おなじような多くの屍とかさなって悶え 

「その日はいつか」
スカート風のもんぺのうしろだけが
すっぽり焼けぬけ
尻がまるく現れ
死の苦しみが推し出した少しの便が
ひからびてついていて
影一つないまひるの日ざしが照し出している、 

生き、働いていることが殊さら人に気づかれぬほどの
やさしい存在が
地上いちばんむごたらしい方法で
いまここに 殺される、

きみはそのとき思ったろうか
幼いころのどぶぞいのひまわりの花を
母さんの年に一度の半襟の香を
戦争がひどくなってからの妹のおねだりを
倉庫のかげで友達とつけては拭いた口紅を
はきたかった花模様のスカートを、

つつましい生活の中の闘いに
せい一ぱいに努めながら
つねに気弱な微笑ばかりに生きて来て
次第にふくれる優しい思いを胸におさえた
一番恥じらいやすい年頃の君の
やわらかい尻が天日にさらされ
ひからびた便のよごれを
ときおり通る屍体さがしの人影が
呆けた表情で見てゆくだけ、

 「呼びかけ」
いまでもおそくはない 
あなたのほんとうの力をふるい起すのはおそくはない
あの日、網膜を灼く閃光につらぬかれた心の傷手から
したたりやまぬ涙をあなたがもつなら
いまもその裂目から、どくどくと戦争を呪う血膿をしたたらせる
ひろしまの体臭をあなたがもつなら