Javaさんのお部屋・改

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

額田女王

著者:井上靖
評価:B+

【評】
やがてこの難波の都には自分たちの想像もできぬような豪壮な宮殿が建てられ、自分たちが想像もできぬような兵力と財力が、もし必要とあれば自在に発動されて行くに違いないと思われた。

乙巳の変(645)にはじまり、遣唐使派遣、
軍港建設 戦争準備、そして山場の白村江の戦(663)を迎え、
鎌足・天智の死、壬申の乱(672)で幕を閉じる。

遷都につぐ遷都、政争、謀反、暗殺、怪異、
風雲急を告げる東アジアの情勢はそんなことにはおかまいなしに展開していく。
内憂外患に揉まれながら歯を食いしばった古代日本の人々の姿を、
万葉和歌とロマンを添えてお届けする。

蒼穹と大地、神々と人々の間を自在に行き来し、額田はコトバを紡ぎ出す。
この国の悦びや悲しみ、この国に生きる人たちの悦びや悲しみ、それを神の御心にはいって詠い上げるのである。いつも、それは滔々たる大河の流れを持っていなければならなかった。この国や国人の運命に通じているからである。

中大兄と大海人の間で根を張りたゆたう額田。

召しを受ける度に火に焼かれた。体は火に焼かれて灰になったが、その灰の中から焼かれないものが出て来た。心であった。

全ては了った。
通り過ぎて行ったあれこれは、遠い昔のことのようでもあるし、昨日のことのようでもある。
今はただ、大地と海を風が吹き抜けるばかり――。
熟田津に
船乗りせむと
月待てば
潮もかなひぬ
今は榜ぎ出でな

あの熟田津の泊りに於ては、まだそのような暗い影はどこにも感じられなかった。天智天皇もお若く、半島出兵へすべてを賭けて、毎日毎日忙しく過しておられた。その天皇のお心になり代わって、額田は出陣の船を詠ったのであった。大御船をあのまま、あの熟田津の港にとめておいて、しめを張り廻らすことができたら、――そんな思いの中に額田ははいっていたのである。