Javaさんのお部屋・改

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

芙蓉の人

著者:新田次郎
評価:B

【評】
頂上は氷の世界になっていた。青い空の下での氷のきらめきはまぶしいというよりも、荘厳であった。彼女は千万の宝石の中に立っているような気がした。

今彼女は、到が十月一日以来、次第にその重さを増して来た冬期連続観測の記録の鎖に、彼女の手で一環一環を加えて行くことに、どれほどの意味があるかも充分知っていた。全ては未知の記録への挑戦であった。

夫婦そろってフジヤマに一つ屋根の下、高山病と極寒に苦しめぬかれる物語。
読んでるだけで寒気と吐き気と頭痛がしてくるのはさすが同業者というべきか。
これだけいじめぬいたんだから、きっと…などと、カタルシスを期待してはいけないよ。
私登山の事、見合するやう御申聞の程は、忝けなく存候へども、何分、無余儀義理にからまれ候事柄に御座候故、思ひ立ちたることのやみがたく…

ついて行きます下駄の雪、美しく聡明で芯のおそろしく強い、明治の女の理想像にして異端がここにいた。

明治二十八年の十二月の富士山頂においては、野中到よりむしろ、野中千代子のほうが主役であったようにも思える。当時は女性上位などという言葉はなかったが、野中千代子こそ、いい意味での女性上位に立つことのできる女性であった。現在の世に、野中千代子ほどの情熱と気概と勇気と忍耐を持った女性が果たしているであろうか。私は野中千代子を書いていながら明治の女に郷愁を覚え、明治の女をここに再現すべく懸命に書いた。