Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

流れる星は生きている

著者:藤原てい
評価:B+

【評】
満洲からの(朝鮮経由)引き揚げノンフィクション。
この肝っ玉母ちゃん、新田次郎のツレだったり藤原正彦のオカンだったりする。
もあるよ。

その日暮らしの極貧極寒生活。
民生ちゃん虐待死、時計千円買取、水島妻発狂、陰険かっぱおやじなど様々な事件が起こったが、
なかでも雨の中の38度線越えは圧倒的な疲労感と横溢する生命力のあらわれだったね。
徹底して主人公らをいじめ抜くので、カタルシス量が圧倒的。
 
<文学チック編>
私は夫の残していった、正彦への愛情をもう少しこのままで置いてやりたいと思った。リュックサックの口を開けると、乾いたおむつがあったからそれを石炭がらよけに咲子の顔にかけてやった。急に私は泣けて来た。私は貨物の木枠に向っていつまでも泣いていた。

子供たちがいち早く春の証拠を摘んで持ってくる。雪解けの斑点が拡大されて次の斑点と合体したところは、はやうす緑の色彩を感ずることが出来る。去年の秋根本から切った髪の毛は一冬越して肩まで垂れ下がっている。そして私たちの身なりは一冬の間にすっかりよごれきっている。お互いに相手を見て恥ずかしい。でも一冬生きて来たという事実は、私たちにいくらか生存に対する自信を与えた。

汽車は暗黒のトンネルへ入って行った。トンネルの先には明るみが必ずあるに違いない。その明るみの中に一刻も早く出て、一歩でも前進したい。どうせ死ぬにしても故郷へ一歩でも近づいて死にたい。

<強さ編>
夫と別れて四日目に私はやっと自分を取り戻した。泣くより今後の方針を立てねばならなかった。

前には私はよく泣いた。しかし今は私は泣かない。戦争だ戦争だ、生きるための戦争だ、私は正彦のまだ舐めている飯盒をひったくるようにして井戸端へ出た。温かい春風が私のほつれ髪をくすぐる。私はその風のたわむれにまで挑戦して、邪険に髪を掻き上げた。

「痛い痛い」
と泣く正彦を、蹴とばし、突きとばし、ひっぱたき、私は狂気のように山の上を目ざして登っていった。

<人間編>
一体、人間の感情というのは不思議なものだ。私たち三十人に足らない団体の個人個人がばらばらになってただ便宜上の集団生活をしている時があるかと思うと、急に強く固まって互いに助け合うことがある。

<ゴールしてもいいよ編>
咲子がれい子の持って来た毛布に包まれ、正広が孝平の背に、正彦が良平の背にそれぞれ引き取られるのを見て、
「もういいんだ、もういいんだ」
私は心の中でこういいながら、眼の前の姿がだんだん薄らいでいくのを感じた。