Javaさんのお部屋・改

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

茨木のり子詩集

選:谷川俊太郎
評価:B+

【評】
『わたしが一番きれいだったとき』『自分の感受性くらい』でおなじみ、のり子。
のり子曰く、「自分なりの納得のゆく時間の流れを別に作り出してゆきたい」。
大岡信曰く、「イデオロギーを主張する立場とは一線を画していて、広い範囲で共感を呼びうる詩」。

「ぽたぽた垂れる涙を 水道栓のように きっちり締め」、
「頬をしたたか濡らす熱い塩化ナトリウムのしたたり」、
「言葉の脱臼 骨折 捻挫のさま」などの平易でいて新鮮な比喩、
『りゅうりぇんれんの物語』などの物語風の詩もグッド。

そんな凛とした彼女の詩を一部抜粋。
全体的に平明で、詩作しさくなる
                                          ね


根府川の海』

あふれるような青春を
リュックにつめこみ
動員令をポケットに
ゆられていったこともある

動員令という重苦しい言葉と青春のミスマッチ。

『こどもたち』

青春が嵐のようにどっと襲ってくると
こどもたちはなぎ倒されながら
ふいにすべての記憶を紡ぎはじめる
かれらはかれらのゴブラン織を織りはじめる

青春はいじめ抜かれるもの。

『見えない配達夫』

地の下には少しまぬけな配達夫がいて
帽子をあみだにペダルをふんでいるのだろう
かれらは伝える 根から根へ
逝きやすい季節のこころを

「帽子をあみだに」がまぬけ感出てるね。

『わたしが一番きれいだったとき』

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように
                 ね

 
ね。

『花の名』

女の人が花の名前を沢山知っているのなんか
とてもいいものだよ
父の古い言葉がゆっくりよぎる

いい男だったわ お父さん
娘が捧げる一輪の花
生きている時言いたくて
言えなかった言葉です


生きてるうちに言ってあげてね。

『ゆめゆめ疑う』

藤原道長さん
年表じゃあなたの全盛もたったの五センチに
すっぽり納まる はかなさ さ
ちょいと兄さん 酒もってこい!

かけたることも わりとあるの さ

『首吊』

遠い昔の記憶なのに
この世の酷薄さをキュッとしぼって形にしたような
てるてる坊主は
時として 私のなかで いまだにゆれる
ひとびとのやさしさのなかで
ひとびとのいたわり深さのさなかに

首吊り死体とてるてる坊主、頭部には酷薄な淀みが。

『言いたくない言葉』

人に伝えようとすれば
あまりに平凡すぎて
けっして伝わってはゆかないだろう
その人の気圧のなかでしか
生きられぬ言葉もある

人それぞれ、心の気圧がある。

『兄弟』

彼らはあとかたもなく忘れてしまうだろう
羽越線のさびしい駅を通過するとき
交した幼い会話のきれはし 不思議だ
これから会うこともないだろう他人の私が
彼らのきらめく言葉を掬い
長く記憶し続けてゆくだろうということは

掬いに掬って宝箱をいっぱいにしよう。

『一人は賑やか』

恋人よ
まだどこにいるのかもわからない 君
一人でいるとき 一番賑やかなヤツで
あってくれ

賑やかなことはけして多人数の特権ではない。

『あの人の棲む国』

それぞれの硬直した政府なんか置き去りにして
一人と一人のつきあいが
小さなつむじ風となって

国ではなく、人を見よ。

『お休みどころ』

ゆるやかに流れていた時間

駅長さんの顔は忘れてしまったが
大きな薬缶と 制服と
注いでくれた熱い渋茶の味
今でも思い出すことができる


ぼやけていても記憶は愛おしいものです。

『みずうみ』

人間は誰でも心の底に
しいんと静かな湖を持つべきなのだ

持ってない人は直ちに造成。

『四月のうた』

暮しを離れること
暮しを ふっと
離れてしまうこと
それが大切なのさ
そんな瞬間を持てない奴は
語るにたりない

朝起きたとき、昼の休憩、夜寝る前。最低三回は欲しい。

『それを選んだ』

生き方をそれぞれ工夫しなければならないのが 平和
男がなよなよしてくるのが 平和
女が溌剌としてくるのが 平和

尻に敷いてください。

『詩』

詩人の仕事は溶けてしまうのだ
民族の血のなかに
これを発見したのはだれ? などと問われもせず
ひとびとの感受性そのものとなって
息づき 流れてゆく

のり子も千の風になったのだろうか…。