Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

田中角栄

著者:早野透
評価:B

【評】
朝日新聞政治記者として田中角栄を担当した著者。

そして思った。この男のすべてを知りたい。あたう限り、じかに見つめたい。田中角栄の何たるかをとことん理解したい。朝日新聞というジャーナリズムの一員だったからさまざまな部署に配置されて途切れることはあったけれども、ともあれ田中角栄の葬儀の日までわが目で見届けることができた。

「母親が寝ているのを見たことがない」「土方は地球の彫刻家」 
「踏まれても蹴られてもついていきます下駄の雪」
三国峠演説」 「蔵相就任演説」
の定番エピソードももちろん収録。 

角栄の若き時代、田舎にはどっかりと伝統社会が残り、都会は近代社会に向け疾走を始めていた。日本の近代 、田舎と東京の狭間に生きた、それが角栄の人生だった。

「道路は文化だ」。角栄の口癖は、新潟三区の雪道をそりで走り回った選挙の経験から来ている。この道路に雪がなければ、どんなに楽だろう。この雪の峠越えの代わりにトンネルで結ばれていたらどんなに早く行けるだろう。ガタガタ道でなく舗装された道だったら自動車で病人をすぐ救い出せるのに。道路は文化生活をもたらしてくれる。角栄にとって、道路はアルファでありオメガだった。

角栄の適応能力は傑出していた。いつのまにか上のふところに飛び込んで出世していく。それが角栄の本領だった。

角栄は太平洋側と日本海側を結ぶ「日本の横軸」を意識していた。それがのちの「国土の均衡ある発展」という国土トータルの開発計画のキーワードに結晶していく。そして政権奪取のマニフェストとしての「日本列島異改造論」につながっていくのである。

角栄よ、「列島改造」の夢の裏に、いつも利権が蠢いていたのでは、「上り列車」の英雄があまりに悲しくはないか。民主主義の子が民主主義を汚していることに、角栄は気がつかなかったのか。

歴史には、ずる賢い知恵がある。歴史は人々を停滞やら逆境やら矛盾やらで苦しませておいて、突然、そこからの解決策を示し飛翔させる。人々に、悪を見せつけていて、突然、善を蘇らせる。偶然のつながりのように見せておいて、いつのまにか必然の結果を用意する。それが「歴史の狡智」だったように思える。