Javaさんのお部屋・改

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

日本近代短篇小説選 昭和篇1

編:いろいろ
評価:B+

【評】
北条民雄の『いのちの初夜』目当て。

波の方へ体を曲げかけると、
「今」俺は死ぬのだろうかと思い出した。
「今」どうして俺は死なねばならんのだろう、
「今」がどうして俺の死ぬ時なんだろう、
すると「今」死ななくてもよいような気がして来るのだった。

どれもこれも癩れかかった人々ばかりで、人間というよりは呼吸のある泥人形であった。頭や腕に巻いている繃帯も、電光のためか、黒黄色く膿汁がしみ出ているように見えた。

「これこそまさしく化物屋敷だ。」
と胸を沈めながら思った。

尾田は、しみじみと自分の掌を見、足を見、そして胸に掌をあててまさぐって見るのだった。何もかも奪われてしまって、ただ一つ、生命だけが取り残されたのだった。

佐柄木が新人の尾田っちに語りかける。

「ほんとにあなたの気持、よく解ります。でも、尾田さん、きっと生きられますよ。きっと生きる道はありますよ。どこまで行っても人生にはきっと抜道があると思うのです。もっともっと自己に対して、自らの生命に対して謙虚になりましょう」

「尾田さん、あなたは、あの人たちを人間だと思いますか。」(略)

「人間ではありませんよ。生命です。生命そのもの、いのちそのものなんです。
僕の言うこと、解ってくれますか、尾田さん。
あの人たちの『人間』はもう死んで亡びてしまったんです。ただ、生命だけが、ぴくぴくと生きているのです。なんという根強さでしょう。
誰でも癩になった刹那に、その人の人間は亡びるのです。死ぬのです。
社会的人間として亡びるだけではありません。そんな浅はかな亡び方では決してないのです。
廃兵ではなく、廃人なんです。

けれど尾田さん、僕らは不死鳥です。新しい思想、新しい眼を持つ時、全然癩者の生活を獲得する時、再び人間として生き復るのです。復活、そう復活です。ぴくぴと生きている生命が肉体を獲得するのです。新しい人間生活はそれから始まるのです。

尾田さん、あなたは今死んでいるのです。死んでいますとも、あなたは人間じゃあないんです。あなたの苦悩や絶望、それがどこから来るか、考えて見てください。一たび死んだ過去の人間を捜し求めているからではないでしょうか。」

曙光につつまれ幕は閉じる。
美しいじゃないか。
「またきっと生きる道はあるはずです。あなたも新しい生活を始めて下さい。癩者に成り切って、更に進む道をを発見して下さい。」(略)

あたりの暗がりが徐々に大地にしみ込んで行くと、やがて燦然たる太陽が林の彼方に現われ、縞目を作って梢を流れて行く光線が、強靭な樹幹へもさし込み始めた。佐柄木の世界へ到達し得るかどうか、尾田にはまだ不安が色濃く残っていたが、やはり生きて見ることだ、と強く思いながら、光りの縞目を眺め続けた。