評価:A
【評】
日本古典文学の鋭鋒。
ヤマトのクール宅急便。
千年余前のこころが、三十一のことばから、いま、すぐ、ここに蘇って来る。
和歌は、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける。世の中にある人、事・業しげきものなれば、心に思ふ事を、見るもの聞くものにつけて、言ひいだせるなり。花に鳴く鶯、水に住むかはずの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやはらげ、猛き武士の心をもなぐさむるは、歌なり。
たとひ、時移り事去り、楽しび哀しびゆきかふとも、この歌の文字あるをや。青柳の糸絶えず、松の葉のちり失せずして、まさきのかづら長く伝はり、鳥のあと久しくとゞまれらば、歌のさまを知り、ことの心を得たらん人は、大空の月を見るがごとくに、いにしへを仰ぎて今を恋ひざらめかも。
分野別に千首くらい収録されており、やまとうた珠玉のコレクシオンとなっている。
恋歌の層が厚いのは気のせいか。
「人はいさ」「世の中に」「花の色は」「秋きぬと」「月みれば」
「ちはやぶる」「山ざとは」「わが君は(君が代)」「あまの原」「唐衣」
「思ひつつ」「住江の」「陸奥の」「月やあらぬ」「つひにゆく」「天つ風」などのレジェンド系を多数収録。
一部抜粋する。
きみならで誰にか見せん 梅の花 色をも香をも知る人ぞ知るきみだけです。
ちりをだに すゑじとぞ思ふ 咲きしより 妹とわが寝る とこなつの花きれいに保っておいてね。
ひぐらしの鳴く山ざとの夕ぐれは 風よりほかにとふ人もなしそれでも風だけは来てくれます。
花みつゝ人まつ時は 白妙の袖かとのみぞあやまたれける花みつつ待つ、アリですね。今度試してみましょう。
神なびのみむろの山を秋ゆけば 錦たちきる心地こそすれ錦をたちきるほどの思い切りがほしいものです。
いにしへにありきあらずは知らねども 千歳のためし君に始めむいつまでも、どこまでも、一緒にいましょう。
別れてはほどをへだつと思へばや かつ見ながらにかねて恋しきALWAYS恋しくて大変ですね。
思へども身をしわけねば めに見えぬ心を君にたぐへてぞやる心をたぐへる、などと言ってみたいものです。
しひて行く人をとゞめむ さくら花いづれを道とまどふまでちれ命令形なのがいいですね。
下の帯の 道はかたがたわかるとも ゆきめぐりてはあはんとぞ思ふあえて下の帯をだしてくるあたりがエッチですね。
世をさむみおく初霜をはらひつゝ 草の枕にあまたたびねぬ草枕はいいですが、冷たそうですね。
行く水にかずかくよりもはかなきは 思はぬ人を思ふなりけりおセンチですね。
君こふる涙の床にみちぬれば みをつくしとぞ我はなりける質量保存の法則は機能していません。
世とともに流れてぞゆく 涙河 冬もこほらぬみなわなりけりオールシーズン流れてます。
秋の野に乱れてさける花の色の ちぐさに物を思ふころかなとりとめがなさそうですね。
今ははや恋ひ死なましを あひ見んと頼めしことぞ命なりける死にそうになりながらも生きていられる所以ですね。
しのゝめのほがらほがらと明けゆけば 己が衣々なるぞかなしきふたりはぜんぜんほがらほがらじゃないのがいいですね。
逢ふ事の渚にし寄る浪なれば うらみてぞのみたちかへりける掛詞マイスターですね。
君やこし我やゆきけん おもほへず 夢かうつゝか ねてかさめてか完全に混乱していますね。
大空は恋しき人のかたみかは 物思ふごとにながめらるらむ空、最近眺めてないですね…。
わがうへに露ぞおくなる 天の川とわたる舟のかいのしづくかロマンティックあげすぎ。天文ネタは鉄板。
忘れては夢かとぞ思ふ 思ひきや 雪ふみわけて君を見んとは遠くに行っちゃいましたね…。
睦言もまだ尽きなくに明けぬめり いづらは 秋の長してふ夜は秋の夜長相手にキレてしまいましたね。
世の中の憂きたびごとに身を投げば 深き谷こそ浅くなりなめ項羽ですか。
どうでもいいが、「つらゆきともゆき」って「ポバールエバール」に似てるよね。