評価：B+
【評】
徳之島ノ北西二百浬ノ洋上、「大和」轟沈シテ巨体四裂ス 水深四百三十米
今ナオ埋没スル三千ノ骸
彼ラ終焉ノ胸中果シテ如何
克明ニ描カレタル巨大戦艦ノ最期
全編カタカナ故ニ 読ミニクイゾイ
―――青年タチノ交々ノ思イヲ乗セ 死地ニ赴ク七万噸ノ鉄塊、大和
森少尉
「ア奴ガ本当ニ仕合セニナッテクレタ時、俺ハア奴ノ中ニ生キル、生キルンダ・・・・・・」
臼淵大尉
「進歩ノナイ者ハ決シテ勝タナイ 負ケテ目ザメルコトガ最上ノ道ダ
日本ハ進歩トイウコトヲ軽ンジ過ギタ 私的ナ潔癖ヤ徳義ニコダワッテ、本当ノ進歩ヲ忘レテイタ
敗レテ目覚メル、ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ 今目覚メズシテイツ救ワレルカ
俺タチハソノ先導ニナルノダ 日本ノ新生ニサキガケテ散ル マサニ本望ジャナイカ」
学徒出身士官
「君国ノタメニ散ル ソレハ分ルダガ一体ソレハ、ドウイウコトトツナガッテイルノダ 俺ノ死、俺ノ生命、マタ日本全体ノ敗北、ソレヲ更ニ一般的ナ、普遍的ナ、何カ価値トイウヨウナモノニ結ビ附ケタイノダコレラ一切ノコトハ、一体何ノタメニアルノダ」
―――時折挿入サルル ネイヴァル・ヒューモア 読者ニ束ノ間ノ休息ヲ許ス
「君ノ眼モ口モ鼻モ、コノ手モ足モ、ミンナ俺ノモノダ」ト許嫁ニ囁ク森少尉
「ソリャイイ体ヲシテマスヨ」ト巧マザル「ノロケ」振リヲ見セル宮沢兵曹
「ゴリラ」の愛称ヲモッテ全将兵ヨリ敬愛セラル艦長
莞爾トシテ「トウトウ一本当テチャッタネ」トオドケテ見セル航海長
―――忌憚ナキ批判ヲ許サレタル洋上ノ鋼鉄製棺桶、大和
戦艦対航空機ノ優劣ヲ議論ス戦艦優位ヲ主張スル者ナシ
「世界ノ三馬鹿、無用ノ長物ノ見本――万里ノ長城、ピラミッド、大和」ナル雑言、「少佐以上銃殺、海軍ヲ救ウノ道コノホカニナシ」ナル暴言ヲ、艦内ニ喚キ合ウモ憚ルトコロナシ
―――心ヲ魅了スル巨大兵器 大和
巨人在リシ日ノ姿ハ、艦首ヤヤ反リ返リ波打チタル力強キ上甲板ノ線ニ、力瘤ニモ彷彿タル機銃、高角砲砲塔隆々トシテ重畳シ、独自ノ力感横溢セルモ、今ヤソノ面影ナシ
オヨソ巨大ナル存在ノ魔力ハ、ソコニ属スル者ノ心魂ヲ奪イ、絶対ノ信頼ト愛着ヲ植附ク
―――眼前ニ殺到スル 「死」
空間ワガ眼前ニ停止シ、時間ワガ周囲ニ凍結スワレ、ワレニシテ、ワレニ非ズコノ間、僅カニ数刻
―――九死ニ一生ヲ得、難キ生ヲ生キル
思ワズ嘆声アガル「生キルノモ、ヤッパリイイナア」
家ニ着ク 父、淡々トシテ「マア一杯ヤレ」母、イソイソト饗応ニ立チ働ク フト状差シニ見出シタル、ワガ電報――文字、形ヲナサヌマデニ涙滲ム
