Javaさんのお部屋(サム・ジーヴァ帝国図書館)

Javaさんのお部屋です。引っ越しました。詳しくは「はじめに」を読んでね。スマホ版は全体像が見えにくいから、PC版と切り替えながら見てね。

三国志

著者:吉川英治
評価:A

【評】
英雄はただ英雄たるばかりでは何もできない。覇業を成す者は、常に三つのものに恵まれているという。
天の時と、地の利と、人である。
アツいけど厚いわ!
おなじみの吉川三国志黄巾の乱孔明の死までを描く。日中戦時中にどのような思いで執筆していたのだろうか。
うム。オオ。ぶツん! などの不思議カタカナが気になるが、基本的にクセのない文体。
群雄割拠の三国時代を駆け抜けた漢たちの物語。
曰く、「士は己を知る者の為に死す(士知死~C.C.C.~)」。

治世の能臣、乱世の奸雄、果断即決、リクルート曹操孟徳。
曹操の頭脳は明澄である。彼の血は熱しやすく、時に、また濁りもするが、人の善言をよくうけ入れる本質を持っている」
温厚篤実、春風駘蕩、優柔不断のビッグブロス。劉備玄徳。
「身を屈して、分を守り、天の時を待つ。――蛟龍の淵にひそむは昇らんがためである」
そして孫堅孫策孫権
劉備の義兄弟張飛関羽董卓貂蝉呂布、荀彧、司馬懿仲達、諸葛亮孔明趙雲周瑜陸遜など、
いろいろなタイプの群雄を配された広大な中国大陸で、人材リクルート合戦が繰り広げられる。
離合集散する将卒、糧を求めて大陸を動き回る民、この国はいつの時代もスケールがバカでかい。
戦場を染める血しぶき、呂布の方天戟が、張飛の蛇矛が、関羽の青龍刀が、うなる!

桃園の誓い、貂蝉のハニートラップ、曹操劉備の語らい、曹操関羽の片思い、三顧の礼趙雲の阿斗救出行、十万本の矢をゲットする孔明赤壁の戦い、出師の表、泣いて馬謖を斬る五丈原の戦い、死せる孔明生ける仲達を走らす、などみんな知ってる名シーンに加え、
武将同士の火花散る互角バトル、曹操の講義をたびたび中断する趙雲関羽張飛関羽のコンビ、ありがち作戦(誘引後包囲、松明夜襲、ニセ葬儀)など、見どころは多い。
よく人の言を用い、軍律を守らせ民心の慰撫に努め、信賞必罰、隠忍外交をよく行えば、キミも誉れある名君になれるゾ。
 

「人命何ぞ仮すことの短き。理想何ぞ余りにも多き」
 
年をとると驕ったり衰えたり過労で倒れたり、将星はガンガン墜ちていく。
孫策曹操劉備孔明の死亡シーンは泣ける。
中華統一を成し得ずに滅び去った三国の行く末を思うとき、国破れて山河在り、夏草や兵どもが夢の跡、の感を深くせざるを得ない。
 

「われらここにあるの三名。同年同月同日に生まるるを希わず、願わくば同年同月同日に死なん」

「予は初めて、予の国をもった」
玄徳も万感を抱いたであろう。国ばかりでなく、このときほどまた、彼の左右に人物の集まったこともない。
軍師孔明
盪寇将軍寿亭侯関羽
征虜将軍新亭侯張飛
鎮遠将軍趙雲
征西将軍黄忠
揚武将軍魏延
平西将軍都亭侯馬超

三国間の戦いは、ただその屍山血河の天地ばかりでなく、今は外交の駈引きや人心の把握にも、虚々実々の智が火華を散らし始めてきた。(略)
いまや蜀も魏も呉もその総力をあげて乾坤を決せねばならぬ時代に入ると共に、この三国対立の形が、一対一で戦うか、変じてその二者が結んで他の一に当るか、そういう国際的なうごきや外交戦の誘導などに、より重大な国運が賭けられてきたものといってよい。 

渺茫千七百年、民国今日の健児たちに語を寄せていう者、豈ひとり定軍山上の一琴のみならんやである。「松ニ古今ノ色無シ」相響き相奏で、釈然と醒めきたれば、古往今来すべて一色、この輪廻と春秋の外ではあり得ない。